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「ちょっと…胃の調子が悪いだけ」 「ん、座れよ。バナナドリンク作る」 立っていた位置から、7席あるカウンターの真ん中の椅子に手を掛けた里麻が少し後ろを向いて店内の時計を見上げた。 「もうオープンの時間じゃない?」 「店主の気分次第だ。そんな顔で人のこと気にしてんな」 俺がグラスを用意しながらそう言うと、彼女はそのまま真ん中の席に腰掛ける。 「里麻こそ、仕事は?」 「このあと」 「急ぐのか?」 「大丈夫」 「バイヤー、続けてるのか?」 「うん」 俺と里麻が別れたのは、俺が会社を辞めてこのカフェをオープンし、里麻がアパレル販売員からバイヤーになった頃だった。 「ここ、うまくいってるんでしょ?」 「何とかな」 「おめでとう、朔。いい顔してる…朔が会社を辞める前は蝋燭の両端に火をつけたみたいな感じがあって…そんなに生き急がないでって思ったけど…」 言葉を区切って俺をじっと見つめた里麻は 「あの時間があっての今だもんね。おめでとう…大成功だね、朔」 ふっと表情を緩めた。それがあまりにも弱々しい笑みで、思わず頬に手を伸ばして一撫でする。 「本当に何があった?笑えてないんだよ…里麻」
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