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chapter~1~
今朝、婚姻届を提出して‘岸本里麻’となった私は只今、3週間前に浮気が発覚した隣に座る男の新妻として文字通り‘披露’されている。披露宴の真っ最中なのだ。
男は岸本賢人、31歳。身長179センチ、体重87キロ、体脂肪率20%の細くはないがっちり体型。
賢人のマットな生地のベージュのタキシードは白のタキシードに近い色味なので私のウェディングドレスとも相性が良いはず。白に比べると温かみのある印象で、白ドレス×白タキシードとは一味違ったお揃いコーデが楽しめると、二人でたくさんの試着を繰り返して決めた衣装も、相性なんてどうだっていいと感じる。
今はただひとつ…私の家族、親戚、友人など私の招待した人たちを騙していることへの罪悪感だけが胸を締め付ける。ごめんなさい…幸せな結婚をするわけではないの。
自分の上司がスピーチするのを賢人はどんな思いで聞いているのだろう。
「まさか、あの方は賢人と尾田さんの関係を知らないよね?」
「……まさか」
「新郎新婦が仲良く顔を寄せ合って囁き合っているところに、そんな硬い表情はいけないわ」
「ああぁぁ…」
「知らないのよね?ご存知でありながら祝辞を述べる…こんなシチュエーションだったら面白いストーリーが出来上がりそうだけれど…残念」
賢人は職場の尾田環という女性と付き合っていたのだ…私という婚約者がいながら。こんな囁きくらいで冷や汗かいていたら、結婚生活は思いやられるわよ、賢人?
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