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彼女さんも幽霊です。
幽霊歴は3年で、ちょっと幽霊界に慣れたかなという子です。
幽霊界もなかなか広くてですね、
地球という星と同じくらい広いそうですよ。
そうそう、幽霊界は一面草原なんです。
朝の柔らかな日差し、昼のぽかぽかの空気、夜の満開の星空……
そして、爽やかな風がなにより良い。
彼女さんはきれいな黒髪をお持ちでして、
肩甲骨のあたりまであるんです。
その黒が風にたなびいているのが
とても美しいと感じるのです。
人は見た目がなんちゃらと聞いたことがありますが
のっぺらぼうなんですから。
ええ、顔面の美しさなんてね。はい。
多分僕は生前そこらへん苦労したのでしょう。
何故だか嫌悪感を感じます。
あと、のっぺらぼうだからといって相手の姿が、風景が、見えないわけじゃないんです。
なんでなのかは僕にも理由がわかりませんが。
話がそれてしまいました。
僕たち幽霊には名前がありません。
生前の記憶がないし、幽霊界に来て与えられるのは体だけなのですから。
なので僕たちは
「彼女さん」、「彼氏さん」と呼び合っています。
彼女さんが僕のことを呼ぶ「彼氏さん」という声がとても好きです。
なぜでしょう。
彼女さんの声を聴くと、
彼女さんの手を握ると、
彼女さんと寝そべって夜空を見ていると、
このまま幸せな時が止まれば良いのにと、
幸せの代償に二人でなら地獄の果てまで落ちてもかまわないと、
心が震える気がするのです。
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