ふしぎな明かりの部屋

1/1
前へ
/1ページ
次へ

ふしぎな明かりの部屋

 光源は何だかわからないけど不思議な白い部屋に私はいた。 「オハヨウゴザイマス」  人工的な声がする。  その声で目が覚める。 「オキガエヲシテクダサイ」  パジャマから普段着ている少し長い上着と半ズボンを着る。  白い部屋のドアが開いて、私はドアの外に出る。  そこからは外の景色と呼ばれるものが広がっているが、すべては屋根の中だ。  ずっとそう言うものだと思っていた。  その日はいつものみんなと遊んでいる時にシスターに呼ばれた。 「ナオミ、コチラニイラッシャイ」  シスターは人型のロボット。私の住んでいる施設には子供たちの他には人間はいないと以前シスターに聞いた。  私はシスターの後について、普段は開けてはいけないと言われているドアを出る。  急に色彩がいつものぼんやりと明るい所に色を付けたような感じから、少し暗いけれど、はっきりとした色のある世界になった。 「ナオミ、スワリナサイ」  シスターは茶色い椅子を指す。  私はいつもぼんやりとした明るさの、角のない椅子に座っているので、その茶色い椅子がいかにもいかめしく見えて、躊躇した。  暗い部屋に目がなれると、私が座るように言われた椅子の前にシスターとは違う、私達を大きくしたような、お父さんとお母さんといわれる大人が座っている。 「こんにちは。ナオミちゃん。」 人工的な声ではない、私や友達と同じだけれど、低い声で挨拶された。 「こんにちは。お父さん。」  ナオミも挨拶する。  ここは、裕福な人が子供が欲しいと思った時に来る施設だという事はシスターに聞いて知っていた。  迎えに来てもらったら喜んでついて行って大丈夫だと生まれる前から脳に刷り込まれていた。本当のお父さんとお母さんという人たちだと教わっている。  この世の中では自然に子供をもうけることは難しい。裕福な人たちはあまり体が汚染されていない10代の健康なうちに自分の卵子や精子を冷凍凍結して、保存しておく。  そして、裕福な人同士が結婚したのち、(その数も実はとても少数だという事だ)自分の卵子と相手の精子で自分たちの本当の子供を育てるのだ。施設の中には、卵子と精子を受精させるための部屋。受精卵を育てるための羊水と同じ成分を持った袋が沢山ある部屋受精した胎児が栄養を取るために臍につなげられた外から栄養を与える機械が備え付けられている。  そうして、新生児として生まれるための部屋。  新生児から5歳まで育つ部屋。  すべてをAIが操作している。  赤ん坊の間は外の世界では育てられない。あまりにも破壊されつくされた世界。空気中には汚染物質が多く漂っている。  裕福な家庭のバリアの中でさえ少しの汚染物質があるのは当たり前なのだ。  そこで、汚染物質に対抗できる5歳まではこの施設でAIによって育てられるのだ。  施設内では新生児から5歳児まで色々な刺激を与えるために、毎日廊下の景色を変え、食事にも気を配り、シスターの下にいるナニーと呼ばれるAIロボットたちが月例や年齢に合った色々な人間の知識を教えてくれる。  自分自身の子供を育てられることは何よりの楽しみなので卵子や精子の冷凍凍結期間から子供を受け取るまでの間莫大なお金をこの施設に払い込んでやっと自分の子供を手に入れられるのだ。  ようやく、自分の本当の父母と面会し、家に連れて帰られることになったナオミは本当は尚美という字を書くのよ。とお母さんに教えられた。  AIの施設から普通の家庭に引き取られ、親としてはようやく子供をそばに置いて育てていくことができるので嬉しくて仕方がない。  しかし、子供側は、いくら人間の知識を教わって言っても、これまで育ててくれたシスターやナニーを簡単には忘れることができない。  そこで、家庭でも施設からナニーも一体引き取って、子供の心が不安定にならないようにすることが定められていた。  期間は2年間。その2年で尚美は順調に実際の父母になじんで人間として生活を送れるようにならないといけないのだ。ナニーはその後もずっと尚美の友達として生涯を一緒に過ごす。  AIに育てられていた尚美は、父母が案外生活面でのミスが多いことがとても気になった。朝ごはんの時間が遅れる。目玉焼きが焦げていることがある。  お父さんのネクタイが曲がっている。生活音がうるさい。  こんなことばかり目に入ってしまい、尚美はなかなか両親になれることができなかった。2年間で慣れることができないと、順応性がないとみなされ、施設に戻される。  父母にとっては哀しいことだが、順応性のない子供を育てる事も、また悲しい事なので仕方がない。  尚美はナオミになって施設に戻された。  そうすると、そこでは尚美の脳にAI知能を埋め込んでナニーとして生活させる。  身体も医療用のAIロボットが生命を維持する必要最低限の機能を残して体のパーツをロボット仕様にする。そうしないと他のナニーと差が出てしまうから。  そういうわけで、AIに育てられた子供は半分くらいは施設に戻ってきてしまうので、ナニーを一体ずつ引き渡してもナニーは足りなくならないと言う勘定だ。  すべてを仕切っている大きなAIの脳は自分たちの施設に利益をもたらす人類を破滅させない様、上手に計算しながら経営をしているのだった。 【了】  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加