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振り返ると、拙作くんは、職員に抱きかかえられていた。ばたつく短い手足は、職員の顔や腹に容赦なく突き刺さる。
彼は職員の腕から抜け出して、必死にこちらへ駆けてくる。そして力一杯に僕を抱きしめる。
「一人にしないで、綴……」
離れるまいと、彼の小さな手が、僕の背中を抱く。
暫く、僕の腹に顔を押し付ける拙作くんのつむじを見つめていた。その肩にそっと手を置いたとき、彼は漸く顔を上げた。
「なんて顔してんだ」と、わざとらしく吹き出して言った。涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった、真っ赤な頬だ。
「拙作くん」
僕は彼の前にしゃがみ込んだ。
「君が笑ってくれるから、僕は今日まで書いてこれたんだ。君は、僕が作家を諦めるのを止めるためにやってきたんだろ?」
彼は両の手のひらで顔を拭った。
「君は一人じゃないよ」
「綴と離れるのは嫌だよ……」
「離れていたって、僕の心にはいつも君がいるよ」
彼の目が不思議そうに潤んでいる。
「ボクのこと、忘れない……?」
「忘れるわけないだろ。毎日来てるんだから」
「明日も来る?」
「うん」
「明後日も?」
「勿論」
他のアバターと長い時間一緒にいたら、彼の存在がめちゃくちゃになったり、消えたりするかもしれないと思っていた。でも、彼はいつも通りだ。
だから――
「大丈夫、自信を持て。君はこれから、沢山の人が手に取る作品になるんだから」
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