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episode10.トリケラトプスと拙作くん
出版社から電話がかかってきたのは、それから三日後のことだった。
「この度は弊社に作品をお持ち込み頂きまして、ありがとうございました。ぜひ直接お話しさせて頂ければと思います。ご都合の良い日程はございますか?」
電話の向こうの声からは、僕の作品に対してどんな感想を持っているのか、察することはできなかった。それをさせないようにしているのかもしれない。
「今からでも大丈夫ですか?」と聞くと、意外にも快諾され、二時間後に本社で待ち合わせという形になった。
出版社に来るまでの記憶はなかった。いつの間にか、僕は待合室の椅子に腰かけていて、そこでどれだけ待っていたかも分からない。
「垣野さん」
「ひゃい」と、ひっくり返った返事をしてしまった。
顔を上げた先の女性社員は、僕の目を真っ直ぐ見返していた。
「編集部の述岡 文乃です。改めて、作品のお持ち込みありがとうございました」
彼女の手には、僕の原稿が握られている。
鼓動が僕の喉を押し潰して、呼吸を妨げていた。
「大変興味深い物語だと思いました」
「あ……ありがとうございます……」
その言葉に、ついほっとしてしまう自分がいた。だけどここで油断してはいけない。僕は背筋を伸ばす。
「構成もしっかり作られていると思います。失礼ですが、賞に応募するのではなく持ち込みをされたのは、何か理由があるのですか?」
「えっと……賞には何度か挑戦していたんですが、思うように結果にならなくて……ぜ、ぜひ、直接見て頂きたいなと」
「そうですか」
述岡さんは少し黙ってから、僕の原稿を丁寧に揃えて、ゆっくり封筒に戻した。
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