episode1.芸術家とアバター

2/12
前へ
/129ページ
次へ
 小説家や音楽家、画家などの、所謂芸術家には、自らの手で作品を生み出すと同時に、その作品を生き物のように具現化させる力を持っている。そしてそれは、作者自身だけでなく不特定多数の人間も目にすることができた。  具現化された作品――つまり、作品の分身は「アバター」と呼ばれた。  彼らが存在することで、芸術家自身のモチベーションは上がるのだろう。創作のパフォーマンスも上がるに違いない。そして何より、彼らの存在は、芸術家としての位置づけを確立させるものだ。  頼斗の作品である『匠の痣』。彼の容姿は、恐らく主人公である中学生のイメージから来ているのだろう。制服のジャケットを袖を通さずに肩から羽織って、ハンチング帽を目深に被り、そこから覗く細い目でアナウンサーを見ている。彼はアナウンサーの質問に泰然と答えていった。  僕には、自分の作品を具現化させる力もない。これだけ書いたのに、何一つ、アバターとして僕の目の前に現れることはなかった。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加