episode1.芸術家とアバター

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 僕が用意したバナナヨーグルトを、拙作くんは、手の甲を上にして握ったスプーンで大きく掬い上げて、しげしげと見つめた。 「おっきー」  ヨーグルトを纏った、厚く切られたバナナは、スプーンの上で不安定にぐらついていた。 「落とす前に食べなよ」 「はーい」  大きく口を開けたのに、彼の口元には、入りきらなかったヨーグルトが付いた。もぐもぐとその頬が大きく上下する。 「綴は食べないの?」 「学食食べるからいい」 「大学? ボクも行く!」  その瞬間、食器が擦れる不快な音が響いた。それを掻き消そうと、僕は声を上げた。 「ダメだ!」 「なんで?」  立ち上がった拙作くんは、僕を見つめ首を傾げる。 「行儀悪いぞ! 食べ終わってから!」  流石に驚いたのか、拙作くんはそっと腰を下ろした。 「なんでよ、ボクは綴の相棒だよ?」 「君は、他の人にも見えるんだろ」 「うん!」 「……取り敢えず服着ないと」  真っ白で真ん丸の、漠然とした姿の拙作くんだが、流石に裸のままで連れ歩くわけにはいかない。  ……大事なところまで具現化されなかったのは、僕の想像力が足りていなかったお陰だろうか。 「じゃー、今日はお留守番?」 「そう」 「服、買ってきてくれるの?」 「うん」 「ふふっ!」彼は口元を、小さな手で覆った。「楽しみだなあ! ボクに似合うの、買ってきてね!」  彼の口元についたヨーグルトまでもが、僕をからかっているように見えた。僕は傍にあったティッシュを掴みとり、乱暴に彼の口を拭った。 「むぐっ」 「行儀悪いってば」 「へへ、ありがとー、綴」  違う、僕はこんなのが書きたいんじゃない。
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