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最終話.ここから私の人生は始まる
ああ、スッとした。私は清々しい気持ちで群馬の実家へと帰って、すぐに祖母の見舞いに行った。
「ああ、愛……来てくれたんかぁ……心配かけてごめんねぇ……」
祖母は一命を取り留めていた。これからは投薬が必要になるけど、食事や軽い運動などをして気を付ければまだまだ長生きできるそうだ。
「良かった、おばあちゃん……」
見舞いを終えると、私は両親に悟との婚約を破棄した事を説明した。
「そうねぇ。前に挨拶に来てもらった時も、話の内容が優等生過ぎてこの人大丈夫かなって思ってたのよ。あんたにAI並みの賢さを求めたり、完璧な家事を求めたり、あんたも大変だったわねぇ。ところで愛、あんた今晩何食べたい?」
「そうねぇ、デリバリーのピザかしら」
「あらまぁぁ、悟さんと別れたら急にジャンクフードだなんてね。分かりやすい子ね、あんたって子は」
そう、母と笑いあった。
どんなにエリートでも、どんなに顔が好みでも、相いれない性格の特性があっては永く一緒にはいられない。そんな当たり前の事に気付くのに、私は一年間を無駄にした。
でもね、この失敗は次に生かそうと思うの。次は、私そのものを見てくれて、素の私が好きだよって言ってくれる人とパートナーになろうと思う。私はAIじゃない。機械じゃない。感情のある、生身の人間なのだから、愚かな部分もあるだろう、至らない部分もあるだろう。それでも良いって言ってくれる人と、一緒になろう。
「あ、退職やめましたって人事に言いに行かなきゃね」
外に出ると、太陽が眩しく光っていた。
「ああ、やっぱり群馬は空気が美味しいわ……」
久しぶりに、息をした気がする。ああ、私は今まで呼吸する事すら苦しかったんだ。
「熱々ピザのホットピザです~、配達に上がりました~」
「あら、ありがとう。早いのね」
「……あれ? もしかして愛? 愛じゃね?」
「えっ!? もしかして……」
私の人生は、ここから、始まる────。
────了
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