ナプキンから始まる出会い

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「その出来事が、若菜ちゃんが人嫌いになった理由?」 アタシの洋服を丁寧にハンガーラックに掛けているアナタの背中に問いかける。 目を伏せながら、静かに頷く。 「うん。」 「その三年間が、ワタシを人嫌いにした理由。」 「否定をされ続けるとね、人間どうなるか知ってる?」 振り向いて真宮 美喜の顔を見つめて、話を続ける。 「生きている価値が分からなくなるの。」 「どうせ否定をされるなら、もう、自分のことを話すことを止めよう。」 「そう思ってしまう。」 「人の顔を見なければ、自分の記憶に残らないで済む。」 「ワタシ、記憶力が良いの…。」 目線を足元に置く。 「楽しかったことの記憶なら良いのに、何故か、辛い記憶ばかり覚えててずっと…。」 「でも、肝心な勉強で記憶力が発揮できれば良いのに、それは全然駄目。」 ワタシは、フッと鼻で笑うかのように微笑む。 「どうして、嫌なことをばかり記憶から消えないんだろうね。」 「全て、記憶が消えちゃえばいいのにってずっと思ってた。」 「記憶が消せる薬があればいいのにね。」 真宮 美喜の顔に向けて、微笑む。 「あっ…。」 「ごめんなさい。」 「初めて会った人なのに、こんな話を長々と…。」 「うんん。」 「若菜ちゃんのこと、もっと…。」 「あっ。」 「うんん。」 「何でもない。」 「何でも、話していいですよ。」 「愚痴とか。」 「アハハ。」 そう言った彼女は、今日、会った時のように、名一杯の笑顔を向けた。 「何でだろうね。」 「こんなに、自分のことを話したの何年かぶり。」 洋服が掛かっているハンガーラックから、ゆっくりと離れる。 「あっ。」 「今日は聞いてくれたお礼にデリバリーでもどう?」 「何でも頼んでいいわよ。」 「ピザとか。」 「あとは……。」 真宮 美喜の近くにいく。 「ケーキ!」 真宮 美喜は、笑顔で身を乗り出して元気にその言葉を発した。 「フフッ」 「そうだね!」 その笑顔に、ほんの少しだけ、心が和らいだ。 「あっ…」 「ワタシ、スマホで頼むの分からないから、美喜ちゃん、頼んでもらえる?」 「お金はワタシが払うから。」 「いいですよ。」 そう言って、鞄からスマホを取り出して、馴れた手つきで操作する。
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