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足早に駅のトイレから出てきたワタシは、冷たく言い去ってしまったことを歩きながら反省した。
「……ったく。」
「なに、初めて会った人に、あんな冷たいことを言ってしまったのだろう……。」
* * * * *
「葉月さん、ナプキン持ってる?」
同じクラスの女子生徒が、ワタシが座っている机までやって来た。
ワタシは、ストレスで、生理が二ヶ月来ないことは当たり前だった。
いつ来てもいいようにと、ナプキンを入れたポーチを学生鞄に常に持ち歩いていた。
関わったことのないワタシに、そういう時だけ聞きに来たりする人が、嫌だった。
だから、ナプキンを持っていたけれど、ハッキリとこう言った。
「持ってません。」
これまで以上にハッキリと言った。
そしたら、その女子生徒は、驚くようにそして、騒ぐように、こう言ったんだ。
「えーっ。葉月さん、ナプキン持ってないんだってー。」
そしたら、周りの生徒も言葉が飛び交う。
「えーっ。マジで。」
「ナプキン持ってないとか、ありえない。」「ヤバいんだけど」
飛び交う言葉を耳に届く。
葉月 若菜(はづき わかな)は、椅子に座ったまま、ただ、何も言わず、何も表情を変えず、じっと耐えているだけだった。
* * * * *
そんな学生時代のことを思い出してしまった。
駅から出ると、洋服屋のガラスに、自分が反射して見える。
長い髪の毛を後ろでひとつにまとめて、グレー色のスーツを着た自分。
虚ろな目をしている自分を自分が見ている。
『ふっー。』と息を吐いて、口角に力を入れて歩き出した。
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