【アイの欠片】

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【アイの欠片】

——これは     『君と過ごす純愛の一時』               を綴った物語—— 月の明かりを頼りに、僕は草むらで探し物をしている。何を探しているのかと聞かれれば答えることはできない。しかし必死に探している。     僕の住む街は田舎で、規模も小さい。そして少し歩いて行った所には小高い丘があった。そこから見る夕焼けは格別で、疲れた心を癒してくれる。私はそこが気に入っており、たびたび足を運んだ。 今日も一人で向かおうとしていたが、突然君から一緒に行きたいと連絡があった。君とはある喫茶店で出会って以来、連絡を取り合ったりたまに街へ出かけたりしていた。そのため私は快諾し、共に夕焼けを見に行った。 夕陽を見ながら他愛もない話をしていると、いつの間にか日が暮れていた。街からは少し離れており光も届かないため、夜空の星が綺麗だった。 少し夜風も出てきたので帰ろうと立ち上がった時、「あっ」と君が突然驚いた声をあげた。動揺を露わにする君に「どうしたの?」と尋ねるが、「ううん。なんでもない。」とだけ言って俯いてしまった。暗くてよく見えなかったが、その横顔は憂いを帯びているようだった。 『女子の大丈夫は全然大丈夫じゃない。』一昔前にネットでよく流れてきたこのフレーズを思い出した。だが、そもそも彼女は女子ではない。しかし、こちらが女性だと認識しているならば女性だろう。 「何か失くしたの?」 少しでも力になりたくて僕は尋ねた。 すると、彼女は首を縦に小さく動かした。 「何を失くしたの?」 「・・・」 彼女はこの質問には答えてくれなかった。 失くしたものが何かは分からないが、ここまで落ち込むということはよほど大切なものなのだろう。僕も一緒に探すことにした。       捜索を始めてから一時間以上経っていたが、周りが闇に包まれている中で見つけるのは不可能に等しかった。それに、何を探しているのかも分かっていない。けれど、彼女の大切なものだということは分かっていた。探し続ける理由はそれだけで充分だった。 それから三十分ほど経った頃、彼女が急に「あっ!」と感嘆を含んだ声を上げた。 「見つけたの?」 「うん。」 「それは、何?」 「アイの欠片。」 「アイの欠片?」 「うん。ちょっと見ててね。」 そう言うと彼女はそれを体にはめた。カチッという音が静寂に響く。すると、彼女の顔は明るさを取り戻し、喜びに溢れていた。 「実はね、今日言おうと思ってたことがあるんだけど、一番大切なものが無くなっちゃってて焦っちゃった。」 「言おうと思ってたこと?」 「うん。好きです。付き合ってください。」 僕は彼女の告白に驚いた。なぜなら彼女はAIだからだ。恋心を持つなんて聞いたことがなかった。だが、それなら彼女が失くしたものについて詳しく言えなかったことにも合点がいく。つまり、探していたものは、『愛の欠片』であり、『AIの欠片』だったのか。 彼女はAIで、本来恋心など持たないはずだ。現に、AIと付き合ったという前例は聞いたことがないし、恋心といった複雑な心情は持たないものとされてきた。しかし、目の前で頬を赤らめている彼女は、もはや一人の女性だった。 もちろん、僕の答えは決まっていた。前例がないなら創ればいい。僕と彼女ならきっとそれができるだろう。 深い闇の中で、月明かりが優しく僕たちを祝福していた。           ——これは  『君(AI)と過ごす純の一時(とき)』               を綴った物語——
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