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青年は旅の人で、直情的なティサはとりあえず彼を追いかけることに決めた。
「ぼくがいないとティサにひどく言われて傷つく人がうじゃうじゃ~って増えてくばっかりだもの。ひとりで旅になんか出せるわけがないよ~」
そう言って、付き人のトイトイも彼女についていくことになった。常にティサのそばに控え、彼女が言葉の暴力で誰かを傷付ける度に、代わって謝る。それが、彼女に仕えるようになってからのトイトイの日常だった。
青年がノエリアックを去る前に彼の泊まる宿を突き止めて、押しかけたまでは良かったが。
「なんなのよ、物言いたげな顔して黙りこくって。言いたいことあるならはっきり言えっての、みみっちい奴」
青年の泊まる部屋にはもうひとり、彼と同年代と思わしき紫髪の男性がいた。あの青年より少し背が高く、鍛えているのか細身ながらもしっかり筋肉がついているのが見える。
ふたりは連れだって各地を旅していて、しかし旅先で住民の少女に押しかけられたのはこれが初めてだ。その素直な困惑をティサに向けたまでなのだが、後ろめたさも手伝っていつも通りの悪態をついてしまった。トイトイは溜息を隠せない。一目ぼれした人を追いかけて来た癖に、どうして端から嫌われそうな言動しちゃうかなぁ。そんな呆れがそこに滲み込んでいる。
「ボクはノアで、こっちはテラ。彼は生まれつき言葉が話せないみたいなんだ」
こうして何も知らずに直感だけで暴言を吐くせいで、何の落ち度もない人の心の傷をいたずらに抉ってしまうのがティサだった。さすがにこういう事情では彼女だって、自分の失言に罪悪感も抱く。しかし、「余計なこと」は簡単に口から出るというのに、謝罪の言葉は素直に出てきてくれない。
「ノアってあたしらみたく、ひとりで生きてくの難しい人間を釣って侍らす趣味でもあるわけ?」
「そんなことないと思うけどな~。ボクは、お互いに一緒にいたいと思える人と生きてくだけだよ?」
こうして、彼ら四人の旅が始まった。
ノアはとある国の王族の身内で、秘密裏に国外の関係者と連絡を取り持つ立場だった。テラは見習い途上の大道芸人。ふたりとも、世界中を旅する用事があり、テラの言葉の困難をノアは手助け出来る。お互いの利益が無理なく一致するため、ふたりは旅を共にしてきた。
成人の十五歳を迎えて間もないティサだが、何の経済的貢献もなく旅についていくのはさすがに体裁が悪い。彼女にとって唯一の趣味といって過言ではない棒術の技術で、テラが見せる大道芸の手伝いをするようになった。
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