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「人が一世一代の愛の告白したっていうのに軽すぎ! なめてんの!? そんな返答じゃあノアがあたしをどう思ってるのかわかんないでしょうがぁ~っっ!」
元より、一方的な好意をぶつけておいて、ティサは彼女らしい身勝手な振る舞いを堪えられなかった。これまた相変わらず、意を介さずノアは笑顔のままだ。
「ティサ、前に言ってたよね。ボクと出会えたのは運命だって。
ボクにとって運命っていうのは、ボクから親も友達も兄弟も奪っていく……悲しいお別れが全てだと思ってた。
でも、ティサが言ってくれたおかげで、気付けたんだ。
運命は抗えないお別れだけじゃなくて、絶対に途絶えないって信じられる一生ものの出会いもくれるんだってね」
かつてのノアにとって、運命とは神から定められた無慈悲だった。
千年前、ノアが影の世界へ入る際に母を失い。辛い務めの中でノアの心を支えてくれた友人は、影の世界の終焉と共に消え去り。ノアを外の世界へ解放するために、兄は自らを犠牲にした。
どんなに願っても逃れられない悲劇の象徴。そんな概念であり、言葉だった。
ティサとの出会いによって、その概念は崩されたのだ。彼女にとって運命とは、自分でこうと決めて選んでいくもの。そう、行動によって示してくれたから。
「ありがとう。ボクに、本当の運命を教えてくれて。ティサの言う通り。ボクも、君と今一緒にいられることを、運命だったんだって思ってるよ」
ティサが想像していたより、もっともっと深い想いを言葉にして贈られて。ティサは自分の頭の中が真っ赤に燃え上がりそうな熱を感じた。ごく普通の可愛らしい女だったら、ここで涙のひとつも流すのではなかろうか? そう、胸の内でこっそり自虐しながら。
ティサはにじり寄ってノアの胸の中に忍び込み、目前にあった服の生地をやんわり噛みしめる。
「……悪いけど、今はあたし、余計なこと何も言いたくない。だからこうするしかない」
そこはちょうど、ノアの心臓の真上にあたる位置だった。さして強く噛んでいたわけではないから、ノアがティサの肩を掴むと簡単に剥がされた。
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