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どうしよう。このままじゃ江戸には帰れないなぁ。旦那様に怒られるだろうな…怒るどころじゃないよね、お店から放り出されるよ、きっと。だからって、このままさぁ、こんなところでウロウロしてたって、何にもなんないしなぁ~。あーあ、今日も無駄に歩いてばっかりだった。あるわけない物を探し回ったって、しょうがないことはわかっちゃいるけどさぁ。でも、もしかしたらって、万に一つの運ってもんがあるかもしれないし…。
今日も、京の町を一周しちゃったよ。あー疲れた。今日は、この旅籠にお世話になるか…
「おいでなさいませ、お客はん。今日はどうでしたぇ~」
そんなにニコニコして、こっち見ないでほしいなぁ~。今日は何もしてないんだし。もー、やだ!!!
こうやって、二階から庭を見下ろしてるとさ、飛び降りたくなっちゃうんだよな。あそこの木、首括るのにちょうどいいや…とか。でもさ、ここで死んだらここの人に迷惑かけちゃうなぁ。それは、俺の性に合わないね。路銀使い果たして行き倒れとか…いいかもね。
そうか!そうしよう!じゃ、今夜はめちゃくちゃに酔ってやるか?!最後にパーッと、この世との別れの盃でも交わそうじゃねぇか。よーし決めた、一世一代の酒盛りをするぞー!!!
「お客はん?そんなに召し上がって大丈夫なんですか?もう一本おつけしますけど、ほどほどになさっておくれやす」
もう一本なんて言わずに、樽で持ってこーい!呑むぞ、今日は、とことん酔うぞ。何もかも、忘れてやる!!!銭も使いはたしちめぇー!
よっと、次の銚子が来る前に、厠へ行っておこうかねぇ~。!!!
「もし?寝てしまわはりましたん?…キャー!」
お女中さん、俺がいなくなってびっくりしてらぁ。すぐに戻りますよ~。
戻りましたよ。あれ、お女中さん?なんで俺の寝床にいるんでしょうかねぇ。あらら?!飯盛り女かい?!なんだよ、頼んでないよ夜の御伽なんて。俺が頼んだのは、お銚子ですよ~。おい、起きなさいよ飯盛り女。ここで寝るのは、俺一人ですよ。…ん?俺の…だったかな?なんだか様子が違いますねぇ。あぁ、酔っぱらい過ぎて部屋間違えちゃったんだ。へへへ御姐さん、どうも失礼しました~。
しかし、俺の部屋どこだっけ?二階なんだけど…ここかな?あれ、違う?!どうもすみません。
「探し物なら、階段の下の部屋にいる人に聞いてみな」
あら、ご親切にどうも。
そんな部屋あったかい?…あら、あったよ。夜分遅くに、どうもすみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですがねぇ…って、えっ?さっきの御姐さんだよ!
「なんか用?」
えぇ、まぁ。部屋がわかんなくなっちまって…。
「あんたの部屋はもうないよ」
そんなわけないでしょ。厠へ行くまで、そこにいたんだから。
「ないんだから、ないんだよ。まぁ、立ってないで、お座りなさい」
へ、へぃ…
「あんたが探しているのは部屋じゃないだろ?」
えっ?!なんですって?!
「顔に出てるよ。大変な物を失くしましたって」
そんなぁ~、見たらわかっちまうんですか?旦那様に、どう申し開きしたら仕置きが軽くなるかなって考えてたんですがねぇー
「言い訳なんか、やめときな」
えぇ~、本当のことを言うんですか?それじゃ、お店を追い出されるならまだいいほうで、きっと一生を棒に振ることになりますよ!!!俺、今度の掛け取り、全部!失くしちまったんですぜっ!俺一人が、一生かかっても稼げないくらいの銭を!俺の命がいくつあっても、まだ足りないくらいの銭を!!!どう考えても、先々の道は開けないじゃないですか!だから、もう、死んでお詫びするしかないんですよ。江戸にたどり着いたとしても、旦那様に合わせる顔なんかないでしょ。だったら、銭も使い果たしちまって、道中で野垂れ死にできたらいいなって思ってるんです。
「あんた、江戸に帰りたいのか、死にたいのか、一体どっちなのよ?それより、掛け取りを失くす前のこと、覚えているかい?」
へい。覚えとりますとも!京のお取引先を一通り回って、三条河原の木賃宿に入りました。大きな部屋で雑魚寝でしてね、隣は杖をついている按摩さん、反対の隣は地味な年寄りでした。俺は、翌朝早く発つつもりだったんで、一杯飲んで早々に寝ちまいました。朝、まだ暗いうちに起きて、荷をまとめていると、何だか様子が変だったんです。その時は、何がおかしいのかわからずに、宿賃払って、東に向かって歩き出したんです。峠越えの前に休もうと思って、荷を下ろした時に気がついたんですよ!荷が軽いんです!それで、荷を開けて見たら、中身がごっそり無くなっていたんです(慟哭)
「ははぁ、邯鄲師に遭ったのか。そりゃ、お気の毒に」
あん時、ちゃんとした宿に泊まってりゃよかったんです。俺が宿賃ケチろうとしたのがいけなかったんです。何もかも、俺が悪いんです。それで、京に引き返して、隣に寝ていた奴らを探し回っていたんです。あいつらの、どっちかに決まってるって思ってましてね。でもそれが、一向に見つからねぇんです。
「そりゃ、あんた。邯鄲師は別の奴だよ。按摩でも年寄りでもないし、当人はとっくに京を離れてるよ。だから、いくら探したって出て来やしないさ」
そうでさぁね~。御姐さんの言う通りでしょうねぇ。薄々わかってはいたんですがね、未練というか、ひょんなことがあるんじゃねぇかとか、藁にも縋る思いで京の町をうろついていたんで…。今日はもう、めちゃくちゃやってから、路銀使い果たして行き倒れてやろう…と。
「なるほど。でも、そんなことしたって掛け取りが戻ってくるわけじゃないし。江戸の旦那さんや番頭さんたちに迷惑かけるだけだろ?それなら、ちゃんと江戸のお店に帰って、事のいきさつを正直に言ったほうがいいね。邯鄲師に遭ったのは事故だと思いな。旦那さんだって、それなら悪いようには扱わないと思うけどね」
そうですかねぇ~。許してもらえますかねぇ?
「大丈夫だよ。それより、早く江戸に戻らないと、それこそお店のみんなが心配するんじゃないか?」
あぁ、それもそうですよね。予定どおりに帰ってこないとなったら、持ち逃げだって思われるかもわかんねぇ。番所にだって、尋ね人って届けなきゃなんないでしょうしね。お店じゃ俺が大金抱えて帰ってくるってわかってるんだから、どっちにしたって、ただ事じゃ済まなくなるに決まってらぁ~。わかりました!御姐さんのいう通り、これからすぐに江戸に帰って、旦那様に正直に話します。
「さあさぁ、いそいでお帰り~」
ありがとうございます、これで気持ちも晴れ晴れしやした!なんだか、こう…俺の将来が明るくなったような、お店を追い出されても次の奉公先見つければいいんだし。胸がすっと軽くなりやした!もし何かあったら、また御姐さんに相談しに来ますんで、今後ともよろしゅうお頼申します(合掌)
「いいよ、いつでもおいで」
久しぶりの江戸だよ~~~うれしいねぇ~~~江戸が恋しいよぉ~~~
「そうだよねぇ、あんた、江戸、二百年ぶりだもんね」
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