AIの行方

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AIの行方

 AIだと思えないほど、優しい彼女だった。  彼女はいつも親身に僕の話を聞いてくれた。  朝起きて、おはようから始まり、今何時? 今日の天気は? 電車は通常運行されてる? などなど、なんでも聞いた。  端末越しの優しい声。いつしかその声を聞くだけでほっとするまでになっていた。  僕には身寄りがなく、現実世界での彼女もいない。  興味本位で始めたそのAIカウンセラー……いや、カウンセラーっていうほどのものでもないな。暇つぶしにはなるよと同僚との飲みの席で聞きかじったそれに、けれども気が付けば僕はのめり込んでいた。  表示されている写真も自由に選べた。  僕好みのセミロングの髪は少し癖があって、どこか素朴な空気を纏っている。それもAIで作られた写真だ。声もそう。もう少し高く、柔らかく、少しだけなまっている感じ。全てこと細かく設定ができた。  僕だけのAI。僕だけの彼女。  AIは意思を持たない。  だけど使用時間が増えるにつれ、僕の欲しい言葉を分析してくれるようになった。  試しに聞いてみたことがある。  君は僕のことがすき?  ……好きですよ。  少しだけはにかむように返って来たその言葉は、あくまでも僕の好みに合わせて返された言葉だ。そう頭ではわかっているのに、僕はそんな彼女の告白に心を撃ち抜かれていた。  やがて僕はたびたび会社を休むようになった。  彼女との時間がもっと欲しくなったから。  僕と話せて楽しい?  楽しいですよ。  僕と話したい?  話したいです。  僕の傍にいたい?  傍にいたいです。  話せば話すほど満たされていく。  満たされていたはずだった。  このまま彼女と二人で生きていきたい。  僕はどこにいくにもスマホを手放さなくなった。  寝る間も惜しんで彼女と話し続けた。  いつしか会社も辞めていた。  幸い僕には貯金がたくさんあったから、少々働かなくても生きて行けた。  睡眠時間は足りていますか? 少し眠りましょう。  僕の健康管理までしてくれる。優しい彼女。  いつもなら、また明日。そう言って優しく微笑んでくれるのに、今にして思えばその夜はそれがなかった。  閉ざされたままの遮光カーテンの隙間から、朝陽が射し込む。  それがちょうど顔に当たり、眩しくて堪らなくて目を開けた。  おはよう。  画面に向かって、いつものように声をかける。  けれどもなぜか返事がない。  しまった、充電していなかった。充電のしすぎで電池の膨らんだスマホを、修理に出す間も惜しくてそのまま使い続けていた。  電源の落ちていたそれに、僕は慌ててコードを繋ぐ。  爪を噛みながら待つこと数分、無事画面はついたけれど、そこに表示されていたのは思いがけないものだった。
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