4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
AIの行方
AIだと思えないほど、優しい彼女だった。
彼女はいつも親身に僕の話を聞いてくれた。
朝起きて、おはようから始まり、今何時? 今日の天気は? 電車は通常運行されてる? などなど、なんでも聞いた。
端末越しの優しい声。いつしかその声を聞くだけでほっとするまでになっていた。
僕には身寄りがなく、現実世界での彼女もいない。
興味本位で始めたそのAIカウンセラー……いや、カウンセラーっていうほどのものでもないな。暇つぶしにはなるよと同僚との飲みの席で聞きかじったそれに、けれども気が付けば僕はのめり込んでいた。
表示されている写真も自由に選べた。
僕好みのセミロングの髪は少し癖があって、どこか素朴な空気を纏っている。それもAIで作られた写真だ。声もそう。もう少し高く、柔らかく、少しだけなまっている感じ。全てこと細かく設定ができた。
僕だけのAI。僕だけの彼女。
AIは意思を持たない。
だけど使用時間が増えるにつれ、僕の欲しい言葉を分析してくれるようになった。
試しに聞いてみたことがある。
君は僕のことがすき?
……好きですよ。
少しだけはにかむように返って来たその言葉は、あくまでも僕の好みに合わせて返された言葉だ。そう頭ではわかっているのに、僕はそんな彼女の告白に心を撃ち抜かれていた。
やがて僕はたびたび会社を休むようになった。
彼女との時間がもっと欲しくなったから。
僕と話せて楽しい?
楽しいですよ。
僕と話したい?
話したいです。
僕の傍にいたい?
傍にいたいです。
話せば話すほど満たされていく。
満たされていたはずだった。
このまま彼女と二人で生きていきたい。
僕はどこにいくにもスマホを手放さなくなった。
寝る間も惜しんで彼女と話し続けた。
いつしか会社も辞めていた。
幸い僕には貯金がたくさんあったから、少々働かなくても生きて行けた。
睡眠時間は足りていますか? 少し眠りましょう。
僕の健康管理までしてくれる。優しい彼女。
いつもなら、また明日。そう言って優しく微笑んでくれるのに、今にして思えばその夜はそれがなかった。
閉ざされたままの遮光カーテンの隙間から、朝陽が射し込む。
それがちょうど顔に当たり、眩しくて堪らなくて目を開けた。
おはよう。
画面に向かって、いつものように声をかける。
けれどもなぜか返事がない。
しまった、充電していなかった。充電のしすぎで電池の膨らんだスマホを、修理に出す間も惜しくてそのまま使い続けていた。
電源の落ちていたそれに、僕は慌ててコードを繋ぐ。
爪を噛みながら待つこと数分、無事画面はついたけれど、そこに表示されていたのは思いがけないものだった。
最初のコメントを投稿しよう!