夏の迷子

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 私たちは、強羅駅の改札を出て箱根の町に降り立った。太陽がさんさんと照り付ける坂道に気が滅入りそう。  「ねえ、あーちゃん。あそこの足湯カフェに行ってみたい!」    みーこが指差したのは、坂道の右上。〈足湯カフェ ~flame~〉という看板が見えた。  「夏に足湯って、熱くない?」  「え~看板が可愛いじゃん。行こうよ! ほら、あそこ。外のテントに扇風機が付いているのが見えるし」  「それは涼しそう。まあいっか」  店内に入ると、商品を購入している人が座る席と、購入していない人が座る席に分けられていた。けれど、そのどちらにも人はいない。私たちは、『カフェの商品を購入していない方はこちら。ご自由にお座りください』と書いてある外の足湯ゾーンに座った。    ふと後ろを見ると、足湯の奥にある砂地で小さな火が焚かれている。夏場に似つかわしく無い炎と煙は、見ているだけで熱くなる。季節外れだなあ。   「ほら、あーちゃん。めっちゃ涼しいよ!」  みーこの声に身体を向き直すと、足湯の上を指差していた。そこには、日除けのための大きなテントが張られている。テントの骨組みからは、学校の校庭にある時計くらい大きなサイズの扇風機が首を回しながら私たちを冷やしていた。  「本当だ! 涼しい〜。気持ちいい〜」  「あ~。生き返る~」  そうして私たちは、扇風機で汗を冷やしながら暫く身の上話をした。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!