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「奪衣婆、懸衣翁、もう帰りな。今からは俺と真吾のブラザータイムだ」
二人とも憎々しげに俺を睨み、舌打ちまでされた。心なしか花畑の花まで、戦闘色の赤に変わっている。棘もあるし。
兄ちゃんは、みんなに好かれているんだな。
「俺の事は気にするな。さっさと石積みして、でっかい塔を建ててやるさ。それよりも」
兄ちゃんの両手が俺の頬を包んだ。ポワポワとあたたかい。
「いいか、真吾。お前まで死んだら、母さんはどうなる?父さんも俺も亡くした母さんが、頼りにできるのは真吾だけだぞ?」
「うん、わかってる……」
「いい子だ」
初めて会った時から、やたらベタベタ触られたのは、久しぶりに会った弟への下手な愛情表現だったのかな。
今もせわしなく触り続けている。そしてその手が止まった。
「もう、行け。決して後ろを振り返らずに歩けばいい。奪衣婆と懸衣翁にも頼んであるから心配ない」
「兄ちゃん、兄ちゃんは?」
俺より少し背の高い兄ちゃんに、抱きしめられて涙が溢れた。俺のせいで兄ちゃんは、あの永遠にも思える石積みをしなきゃならない。
「真吾、母さんの事……これからもよろしくな?さぁ、行け!」
兄ちゃんはみるみる小さくなり、5歳の兄ちゃんに戻った。
俺は無理やり兄ちゃんに背中を向けると、言われた通りに歩き出す。いつの間にか、奪衣婆と懸衣翁に挟まれていて、道々、散々嫌味を言われた。
しかもお約束のように二人に飛び蹴りをくらわされ、俺は三度目のグルグルに突入した。
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