俺と三瀬川の番人と

12/13
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「奪衣婆、懸衣翁、もう帰りな。今からは俺と真吾のブラザータイムだ」  二人とも憎々しげに俺を睨み、舌打ちまでされた。心なしか花畑の花まで、戦闘色の赤に変わっている。棘もあるし。  兄ちゃんは、みんなに好かれているんだな。 「俺の事は気にするな。さっさと石積みして、でっかい塔を建ててやるさ。それよりも」  兄ちゃんの両手が俺の頬を包んだ。ポワポワとあたたかい。 「いいか、真吾。お前まで死んだら、母さんはどうなる?父さんも俺も亡くした母さんが、頼りにできるのは真吾だけだぞ?」 「うん、わかってる……」 「いい子だ」  初めて会った時から、やたらベタベタ触られたのは、久しぶりに会った弟への下手な愛情表現だったのかな。  今もせわしなく触り続けている。そしてその手が止まった。 「もう、行け。決して後ろを振り返らずに歩けばいい。奪衣婆と懸衣翁にも頼んであるから心配ない」 「兄ちゃん、兄ちゃんは?」  俺より少し背の高い兄ちゃんに、抱きしめられて涙が溢れた。俺のせいで兄ちゃんは、あの永遠にも思える石積みをしなきゃならない。 「真吾、母さんの事……これからもよろしくな?さぁ、行け!」  兄ちゃんはみるみる小さくなり、5歳の兄ちゃんに戻った。  俺は無理やり兄ちゃんに背中を向けると、言われた通りに歩き出す。いつの間にか、奪衣婆と懸衣翁に挟まれていて、道々、散々嫌味を言われた。  しかもお約束のように二人に飛び蹴りをくらわされ、俺は三度目のグルグルに突入した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!