俺と三瀬川の番人と

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「真吾!!」  アパートの玄関から身を乗り出し、母さんが叫んでいる。普段はあまり小言を言わないくせに、今日はヤケに絡んでくる。  そりゃそうか……いつまでもバイトに逃げて、就職しようとしない俺に堪忍袋の緒が切れたんだな。 「わかってる!とりあえずバイト行ってくるから!」  今日はバイト代が入る日だから。  古臭い中華屋の店主は、手渡しでしかバイト代をくれない。だからとりあえず行こうとしていただけ。  シングルマザーで俺を大学まで通わせてくれた母さんなのに、感謝って毎日のつまらなさに埋もれてしまうんだな。  今日も暑いな……入ったバイト代で、とりあえず昼ビールだな。それから──。    何も聞こえない。  当たり前の日常って、突然ぶっ壊れるものなのか?  俺は今、血まみれで倒れている俺を見ている。パトカーに救急車、俺を必死になって蘇生させようとしてくれている知らない誰か。  ドラマを見ているような、まるで他人事のような事故現場に、俺はただただ浮かんでいるだけだ。  あれだけ喧しかった蝉の声も聞こえないし、野次馬の話し声も聞こえない。  まわりを見渡すと、俺と同じように浮かんでいる奴がいた。  開きっぱなしの口、血走った目、頭を掻きむしり言葉にならないうめき声を発している中年男は、多分俺を轢いた加害者だ。 「心肺停止!!」  救急隊員の声を最後に、俺の目の前はグルグルと回りだした。  
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