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奥平柊、の話
昔から、やればなんでもそこそこできた。
勉強も運動も習い事も。
同級生と馴染むのもそんなに時間もかからないし、大人相手でも臆することなく意見することもできた。
コミュニケーション能力は、普通以上にはあると思っている。
高校生になる頃からは、女子との付き合い方も覚えた。
幸い、自分はスターみたいなイケメンではないがインテリ系のわりと整った顔をしていたので、正直モテた。
表立ってキャーキャー言われるのが、運動部のエースなら、俺は陰でひそひそ噂されるタイプ。
悪口ではなく、色恋沙汰の話だ。
まあ、自分自身、恋愛の対象は女でも男でもどちらでも良かった。
きっかけは些細なことだったりするけど、「こいつ、いいな」と思った相手を好きになることが多かった。
男で、いいなと思って付き合ったことはまだない。でも、女なら、8割9割、相手も俺に気があった。
だから、大学生としてはたぶんそこそこの恋愛経験値は、ある。
ーーもっとも。
俺はまだ、『こども』の範疇を越えてはいなかったので、社会人になった今、自分はどんな大人の恋愛をするのかーー
それは、まだわからないのだが。
*****
「奥平、お前内定決まったの?」
同じ学部で同じ講義を受けていた友人のひとりが、俺にそう聞いた。
俺は、スマホを眺めながら答える。
「決まった」
「嘘。早。もう就活終了?」
「いや、まだ最終面接までいってるところがいくつかあるから、それは受ける」
「はあ~、さすが優等生!いいねぇ、大手から何個も内定もらえる奴はさ」
羨ましー!と、また別の友人が言った。
羨ましい……か。
確かに自分は、運が良かったのか、成績や素行のおかげか、それほど努力しなくても就職試験を突破できた。
エントリーシートや筆記試験はもちろん、対面での個人面接、集団面接、はたまたweb面接まで、特別難しく感じることもなく挑めた。
面接試験前、「ガチで緊張する」と震えながら言う友人の気持ちがあまり理解できなかった。
だが、それを言うと反感を買うのはわかっているので余計なことは言わなかったが。
「でも、本命は受かってんだろ?なんだっけ、大手出版社?」
「……お前、人のこと言ってる場合か?まだこれから面接なんだろ?」
そういうと、友人はスマホを見て「やべっ!」と言いながら慌てて荷物を片付けた。
真っ黒なリクルートスーツをきた友人は、格好だけみれば、社会人だ。
「俺、行くわ!今日、最終面接。中小企業だけどさ、当たって砕ける!」
「行く前から砕けてんじゃねーよ」
別の友人の返しに、俺は笑った。
「なあ、奥平」
「ん?」
「さっきの話。お前、大手出版社とか他にも内定してんなら、もうよくない?あとは大体、中小やベンチャーだろ?」
その友人は、既に大手金融機関に内定をもらっていたので、そのセリフに嫌味はなかった。
俺は、意味もなく目の前のペンを手に取り、口元に当てた。
「俺は大手にこだわってるわけじゃない。まあ、これ以上新規を受ける気はないけど、今面接待ちのところまでは、受けきろうと思ってるだけだ」
友人はそんな俺を見て「無駄な労力使うんだな」と鼻で笑った。
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