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「ほう。AIを利用した発注システムか」
俺は興味深くそのディスプレイを覗き込んだ。
「はい。これひとつで大幅な業務の効率化が望めます」
目の前のスーツを着た男が、にこやかに自社製品の説明をしていく。
俺は食品スーパーを経営している。最近はどの業界もAIの導入が盛んだ。発注業務へのAI導入も、先日ネットで見て興味を持ったその矢先だった。
「でも、機械はどうにも信用ならんところがあるなあ」
「いえいえ、むしろ人間が発注するよりも正確ですよ。弊社の製品は前年データ等を用いた特売時や物日の予測だけでなく、気象条件も加味した正確な予測を立てることができます」
「ふむ。でも金がかかるだろう」
「いえ。実は今モニター様を募集しておりまして。一年は無料でお使いいただけます」
無料だということが決め手になった。
「では、使わせてもらうとするか」
導入から一ヶ月ほど経った時のことだ。
「なんじゃこりゃ」
発注機から上がってきた明日納品のデータを見て、俺はため息をついた。
「何品目も普段の五倍以上の発注が上がっているぞ」
某カップ麺五十ケース、某ミネラルウォーター百ケース……。
「もう発注締め時間を過ぎてるから訂正できんじゃないか」
今回は日持ちする商品だから助かったが、やはり機械は信用ならない。毎日全発注データをチェックしないといけないなら、最初から人間がしたほうがいい。
俺は一年後は解約しようと決意し、肩を落とした。
翌日の閉店後。俺は発注機の営業担当の名刺を血眼になって探していた。会社の電話番号が書いてあったはずだ。
「あった!」
震える手で番号を押す。
「この電話は、現在使われておりません」
何故だ。
今すぐ解約したいのに!
俺は今朝の納品でぱんぱんになっていたバックルームを呆然と眺めた。そう、「なっていた」。
今、バックルームには何もない。
全て売り切れた。
買い占めが起こったからだ。
大地震が起きて、首都は壊滅的な被害を受けているそうだ。
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