あの日のミルキーウェイ

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「……よし、できた」  私は完成したばかりの書類データを保存してノートパソコンを閉じた。なんとか明日までに間に合ってほっとする。せっかくの休日がパーになってしまったが、明日のことを思えば致し方ない。滅私奉公。大人は辛いなと時々思う。  立ち上がって軽く伸びをすると、ポキポキと小気味よい音が鳴った。背中から腰にかけての筋肉がほぐれていくのを感じる。  今日は一日中パソコンに向かって作業をしていたから座りっぱなしだ。休憩がてら少し外の空気を吸おう。  私はリビングから隣接するベランダに出た。手すりにもたれかかり夜景を眺めていると、ふわりと吹いた風が頬を撫でる。生ぬるいそれに思わず私は顔をしかめてしまった。  真夏の夜は日中に比べれば幾分かマシだが、それでも暑い。今日も寝る時はエアコンを手放さずにはいられないだろう。  耳をすますと、夜の住宅街にも様々な音があった。犬がどこかで吠える声。鉄橋を渡る電車の音。はるか遠くから聞こえる救急車のサイレン。  急に胸が締めつけられた。  こんな夏の夜には思い出さずにはいられない。少年時代のある夏のことを。
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