あの日のミルキーウェイ

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 やり始めてみると結構、楽しかった。ただの乗用車でも私たちの目を通せばそれは敵組織の巡回車だ。敵に見つからない為に時には陰に潜み、また時には一般人のふりをする。ただの日常がアニメの中の世界みたいだった。探偵というよりスパイっぽかったが、面白いから細かいことは気にしない。  しかし興奮しすぎた私たちは、自分たちがエージェントになりきることに熱中してしまい、一番重要な“隠れる”ということが疎かになっていた。つまりは騒ぎ過ぎたのだ。  夏海姉ちゃんに気づかれた私たちは、その場で何をしていたか締め上げられ、洗いざらい白状するとゲンコツをもらった。健太だけ。  トランシーバーは取り上げられ、夏海姉ちゃんの「健太には貸出禁止」の通達とともに私の元に戻された。  * * * *  夜になると伯父が仕事から帰宅し、夕飯と相成った。  座卓に並んだおかずを見て、健太は不満を漏らす。いとこがやって来たのにどうしてごちそうじゃないのか、と伯母に文句を言っていたが、私は普通の食事も嫌いではなかった。そもそも変に歓迎会などされてはこちらも改まってしまい居心地が悪い。普通でいいのだ。普通で。
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