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十歳の頃、私は共働きの両親の都合で八月の半ばの一週間を西日本の田舎にある伯父の家で過ごした。東京に住む私にとって、そこでの生活は新鮮なものだった。
* * * *
「マルちゃん、この近所を俺が案内してやるよ」
到着早々に伯父の家の長男坊・健太に誘われた。健太は私より一つ上。学年でいうと私が四年生で彼が五年生だ。
せっかくの誘いだったが、私はあまり乗り気ではなかった。本当なら家で地元の友達と遊んだり、テレビでアニメの再放送を見たりして過ごしたかった。
だから私としては田舎を満喫するつもりはなく、部屋にこもってこの不本意な一週間をやる過ごすつもりだったのだが、彼はそれを許してはくれなかった。
私の返事を聞く前に、彼はそそくさと出かけてしまったのだ。無視して自分の時間を過ごしてもよかったのだが、これからこの家で世話になる身、あまり反感を買うことはしない方が得策だろう。
仕方なく私は腰を上げた。家を出ようとしたところではっとひらめき、踵を返す。
せっかく遊ぶならあれを使おう。
私は家から持って来た荷物の中からある物を取り出すと急いで健太の後を追った。
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