始まりの川辺

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「な~るほど。うん、そのゾンビ事件とやらが災いで間違いないね」 「そんな、災いだなんて」 「めっちゃカッケ―じゃん!」  不安そうな指原さんとは反対に、大筋君は楽しそうだ。 「……災いを祓う方法は、あるの?」 「まあ、君たちが協力してくれるなら」 「祓ったら、ゾンビ化した人たちは、元に戻るの⁉︎」 「ちゃんと祓えたらね☆」 「……そう」  指原さんは下を向く。  まただ。お母さんの話をしていた時と、同じ顔。  もしかしたら…… いや、考えるだけ無駄だって。僕は頭を横に振る。  ここまで静かにしていた本庄君が、もうガマンできないといった様子で声をあげる。 「災いだって⁉︎ そんな非科学的なことあるわけないだろう!」 「じゃ~他になんだっつーんだよ」 「そ、それは……」    僕も話だけなら信じなかったと思う。でも、ゲームの中から人が現れたり、ソイツが空高く飛び上がったり。  そんなものを見せられちゃ、信じるしかないでしょ。 「ボクは信じないぞ。きっとこれも、映像かなにかだろ!」 「まぁ、君たちが信じようが信じまいがどっちでもいいけど。問題は、この災いは君たちにしか祓えないってことさ」 「それって、どういうことですか?」 「あっはは! そんなの私も知らないよ。それがパンドラのルール、ってだけさ」 「ボクはそんなあやしい話、のらないからな!」 「別にいいけど~、知らないよ? 明日には君の家族がゾンビになっても♪」 「ひっ!」  本庄君が大筋君のTシャツをつかむ。   僕は小さくため息を吐いた。  たしかにゾンビ事件を解決しようとは思ったよ? でも、災いなんてものに巻き込まれるなんて思いもしなかった。  はあぁ、いつも通り一人で帰っていたら、こんなことにはならなかったのに。  一人ならケンカが起きることも、お守りを落とすことも、川からあやしいゲーム機を見つけることもなかった。  やっぱり現実はゲームみたいにはいかないなぁ。イレギュラーばかりで嫌になる。 「それで、どーしたらいいの、おっさん?」 「おっ…… だから、私はお兄さんでしょうが! もう、よくお聞き!」  彼は紫色のマントをバサッとひるがえす。  そしてハットを脱ぐと、昔の貴族の人がやるような上品なおじぎを一つ。 「改めまして、私はホープ。この町に残された、最後の希望だよ」 「ホープ……」 「HOPE(希望)って、そのまんま過ぎるだろう。大体、ボクはまだ––––」 「なんかウマそう!」 「タケル、それきっとホイップよ」 「あっはは! これはこれは、ユカイなパーティーだ。マーヴェラス‼︎」 「さっきも思ったけど、そのマーなんちゃらってなんだ?」 「Marvelous(マーヴェラス)、素晴らしいって意味の言葉だよ、茶髪ボーイ」 「俺様は茶髪ボーイじゃねぇ、タケルだぁ!」  川のせせらぎに、ホープのケラケラという笑い声が混じる。  見上げた空には、飛行機雲がのびていた。
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