始まりの川辺

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始まりの川辺

 チクタク、チクタク  ヒマだなぁ。国語の授業って、どうしてこんなに退屈なんだろう。  チクタク、チクタク  あの雲、ソフトクリームみたい。つめたいバニラ味の。おいしそう。  チクタク、チクタク  帰ったらなんのゲームをしよう。って、そうだ、禁止されたんだった。  はぁ、事件なんて起きなければ…… 「……くん、……遊 勇悟君!」 「えっ」 「え、じゃありません。先生の質問、ちゃんと聞いていましたか?」  先生は四角いメガネをくいっと上げて、僕をジッと見つめてくる。  やらかした。いつものパターンからして、今日は三の倍数の人しか当たらないと思っていたのに。 「もう一度聞きますよ。愛犬を失って、主人公は空を見上げました。この時、彼はなにを考えたと思いますか?」  ゆっくり立ち上がりながら考える。教科書には、原っぱにしゃがんで夕焼け空を見上げる、男の子の挿絵(さしえ)が一枚。  僕、生き物を飼ったことないんだよなぁ。お葬式も出たことないし。  困ったなぁ。 (ユーゴ君ってやっぱりイケメンだよね) (うちの学校で一番じゃない?) (無口なところもミステリアスだし。でもさ……)  主人公の気持ちかぁ…… あ、この雲。  僕は顔を上げ、堂々と答えた。 「ソフトクリームが食べたいな、ですかね」 「そっ、ソフトクリームぅ⁉︎」 (((ぶっ飛んでるよね~)))  教室中がざわつく。先生が困ったように頭をかく。  また、やらかした。だから国語は嫌いなんだ。  やっぱり、現実は激ムズだ。
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