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「チヒロ、チェンジだ! ユーゴが答えわかったって!」
「なっ…… う、うそだ! ボクがわからない問題を、ユーゴに解けるもんか!」
まあ、そうなるよね。
残り二分。いや、一分四十五秒。
この問題は、本庄君だからこそ難しい。博識の彼だからこそ、複雑に考えすぎてしまうんだ。
そしてそんな彼なら、僕にバトンタッチなんてプライドが許さないだろう。
ゲームオーバーになっても死にはしない、とは言っても……
僕は足元の水をチラリと見る。
残り三分を切った辺りから、腹を空かせた水竜のゴキゲンが悪くなっていた。
グルグルと檻の周りを泳ぎ、時々顔をのぞかせてはあの黄色い瞳でギョロリとにらんでくる。
ガタンッ!
「きゃあああぁぁ!」
言ってるそばからヤツの尻尾が檻に当たる。「はやく食わせろ」と言っているみたいだ。
僕たちはぐわんぐわんと檻の中を転げ回った。
「チヒロ! 交代するか正解するか、早く決めてよぉ!」
「ボ、ボクは……」
本庄君はくちびるを噛みしめて下を向く。
どうしても譲れないみたいだ。
他プレイヤーが直接答えを教えることはルール違反。なら、もうこれしかない。
僕は大きく息を吸うと、お腹のそこから声を張り上げた。
「ねえ、ホープって本当は英語話せないんじゃないの⁉︎」
「え、なぁに突然? 失敬な~」
指原さんと大筋君が「なにしてんの?」という顔で僕を見る。
ええい、今は気にするな。
届け! 僕がこんだけ大声出してんだから!
「本当かなぁ⁉︎ なら、英語で問題文を読んでみてよ!」
「な~に言ってんのさ、そんなことしたら答えが––––」
ホープが言いかけて「あっ」と口を押さえる。
本庄君はその一瞬を見逃さなかった。たのむ、伝わってくれ……
「英語…… 人間のはじまり、魚の終わり…… ああ‼︎」
本庄君の目が輝いた。
君ならできるって、信じてたよ。
「わかった! 答えは、アルファベットのHだ!」
タイマーが止まる。
残り、三秒。
「ふ~ん、一応理由を聞こうか」
「人間、つまりHUMANの一文字目。そして魚、FISHの最後の文字。JAPANにもWORLDにもないけど、HOMEの中にはある文字、それはHだ!」
緊張の一瞬––––
「……ピンポンピンポーン♪ 大正解~‼︎」
「「「「やった~‼︎」」」」
パーンとクラッカーが鳴り、紙吹雪が舞った。
本庄君はふぅと息をはき、僕たち三人は思い切り抱き合った。
全問正解。
ゲームクリアだ!
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