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二人に支えてもらいながら、どうにか橋まで上がることができた。
久しぶりの大声って、こんなに疲れるんだな。
おまけに檻の中で揺られたせいで、少し気持ち悪いや。
「ユーゴ、大きい声出せたのね」
「まぁ、一応」
「大丈夫か? イミフメーなことばっか言ってたけど」
僕の必死のヒントはイミフメーの一言で片づけられてしまった。
もうどうでもいいや。ゲームはクリアしたんだし。
顔を上げると、向こうから本庄君が走ってくるのが見えた。彼、走れるんだ。
「はぁ、はぁ。ユーゴ、君と二人で話したい」
「えっ…… わかった」
指原さんは、またケンカをするんじゃないかと心配そうだ。
大筋君が「だいじょーぶだって!」と言いながら、指原さんを連れて行く。
僕はすました顔をしているけど、内心ではテンションガタ落ちだ。今度はどんな文句を言われるんだろう。
少しの沈黙の後、本庄君が口を開いた。
「……認めるよ。ボクの負けだ」
「え⁉︎」
「君はテストの点は悪くない。でも、知識量ではボクの足元にも及ばない」
「そ、そうデスネ」
ん?
てっきり謝罪だと思っていたけど、これは自慢なのかな?
「そんな君に、ボクは負けた。どれだけ本にかじりついたって、結局は無駄だったんだ。今までの無礼を詫びるよ。本当にすま––––」
「いや、無駄じゃないでしょ」
「え?」
そのまま謝罪を受け入れたら終わりだったのに、思わず口を挟んでしまった。
もういいやと、勢いのまま僕は続ける。
「人生に攻略本はない。本を読んでも、そこに答えは載ってない」
「……ああ」
「って言葉、僕、嫌いなんだよね」
「ほぇ?」
本庄君でもそんなバカっぽい顔するんだな。
僕は思わずクスリと笑ってしまう。
「答えって言い方が気に入らないんだ。本には、可能性が詰まってるんだよ」
「可能性……」
「うん。本庄君は、誰よりも可能性に満ち溢れてるんだ。だから、無駄じゃないと思うよ」
本庄君は下を向いて黙りこくってしまった。
まずい、やらかした。
そうだよな、僕にこんなこと言われても「上から目線でエラそうに!」ってなるよな。
でも、どうしても言いたかった。
常識とか答えに振り回されるのは、僕もコリゴリだったから。
もしかしたら、ちょっと、ほんのちょっとだけ。
彼の気持ちがわかるかもしれないって、思ったんだ。
「……」
「ほ、本庄君? その、ごめ––––」
「千博だ」
「え?」
「チ・ヒ・ロ! ユーゴ、君を友として認めよう。だから、いい加減名前で呼べ」
「えぇ?」
「はやく!」
「は、はいっ。……チヒロ?」
「うん」
ほんじょ…… チヒロは満足そうに腕を組んだ。
ピロンと音が鳴って、目の前にウィンドウが表示される。
【チヒロが仲間になった!】
「へ?」
「どうした?」
どうやらチヒロには見えてないみたい。
友達? 仲間?
それって、ケンカと仲直りをくり返すっていう、あの?
「ほら、行くぞ!」
「うあっ。ちょ、ちょっと」
チヒロが僕の手を引いて走り出す。
友達って、自分のペースで歩かせてもくれないのか。
あ~、めんどくさい。
でもまあ……
胸がくすぐったくなるこの感覚は、そんなに嫌いじゃない、かもしれない。
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