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目を開くと、そこには長く急な坂道があった。
あれ、ここって……
「この坂……」
僕がつぶやくと、みんなもすぐに気づいたらしい。
「たしか坂の上に、ミノリの音楽教室があるな」
「……うん」
「うわ~、危なかったな! すぐ近くにゾンビ化した奴がいたってことだろ!」
「……そうね」
指原さんは小さく返事をする。やっぱり、間違いない。
指原さんの家族は、ゾンビ化している。
たしかお父さんはオーケストラのツアーで海外にいるって聞いた。兄弟がいるかは知らない。
でもまあ、お守りを拾った時の態度からして、ゾンビ化したのはお母さんだろうな。
うつむく指原さんの元へ近づいて、僕はそっと告げた。
「……絶対にクリアしよう」
「っ! ……うん。ありがと、ユーゴ」
そう、やることは変わらないんだ。
ゲームをクリアして、災いを祓う。僕たちに出来るのはそれだけだ。
「ホイップ! 次はどんなゲームだ?」
「ホープね。ではではお待ちかね……」
ホープがステッキを振ると、アスファルトの坂は黒く染まった。
紫色のネオンが、長~い坂を縦に区切っていく。まるでリレーのコースみたいだ。
「お、レースゲームか⁉︎ それならまかせろ!」
大筋君が勢いよく走り出したが、ビタンと見えない壁にぶつかる。
よく見ると、僕たちを囲むようにバリアが張られていた。
「いって~!」
「スタート前に走り出す奴がいるか。それに、どうやらレースじゃないらしい」
チヒロは坂の頂上を指さした。
そこには、大きなグランドピアノが一台。
坂の真下から見ても大きいと思うんだから、近づいたら何メートルあるんだろう。
巨人にしか弾けないほどの大きさだ、ということは……?
ズシン…… ズシン……
不穏な音とともに、地面が揺れる。
「うっわ、でっけー!」
坂の向こうから現れたのは、女の巨人だった。
長い髪からのぞく瞳が、ビカっと光る。
あんなのに踏みつぶされたら一溜まりもない!
僕たちはグッと身がまえたけど、巨人は坂を下りずにピアノの前に腰かけた。
「お、なんか弾くみたいだぜ!」
「これって、つまり…… 音ゲー?」
「ちょ~っと惜しいかな♪」
僕のつぶやきにホープが応える。
彼はもう着替えを済ませていた。音楽室に飾っている、絵の中の人みたいなフリフリの衣装。キレイな銀髪はクルクル巻きにしている。
手には真っ白い指揮棒がキラリ。
「ずりぃ、俺様も変身したい」
「いいでしょう、叶えてあげる♪」
指揮棒を振ると、そこから出たキラキラが僕たちを包みこむ。
目を開ける前に、チヒロの悲鳴が飛び込んだ。
「なんだよこれは!」
「あっははは! チヒロお前、似合ってんじゃん!」
どうやら僕たちは、バンドマンみたいな服に替えられたらしい。しかも、結構ロックな。
ジーパンにベスト姿の大筋君。長めの髪をおろしていて、正直言ってかなり似合っている。
指原さんはドクロのTシャツに黒のミニスカート。首にはトゲトゲのチョーカーを着けている。
そしてチヒロは……
「ぶっふ!」
「おいユーゴ! 笑うなぁ!」
チヒロの衣装は黒一色でおかしいところはないけど、彼の髪は真っ赤に染められ、ワックスでツンツンにセットされていた。
「いや…… ふふっ…… に、似合って、るよ?」
「笑いをこらえながら言うなぁ!」
チヒロがポカスカ叩いてくるけど、ぜんぜん痛くない。
ちなみに僕は革のパンツに革のジャケット姿だ、かなり動きにくい。
アクセサリーがカチャカチャ鳴って、これもジャマで仕方ない。
「断固抗議する! ホープ、今すぐ衣装を変えるんだ!」
「聞こえませ~ん。ほらほらルール説明いくよ~」
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