調べの坂

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 チヒロの文句をさえぎるように、ルール説明のウィンドウが表示された。 【ルール説明】 ・巨人はピアノの練習中! ・飛んでくる(おんぷ)を避けていこう! ・ライフは一人三つだよ ・全員のライフがゼロになるとゲームオーバー ・演奏が終わるまで、誰か一人でも生き残ればゲームクリア! 「音ゲーかつ、ってことか……」 「逃げればいいんだな? なら俺様にまかせろ!」  大筋君が嬉しそうに飛びはねる。  演奏時間がどれくらいかわからないけど、リズム感のある指原さんと、すばやく動ける大筋君がいれば大丈夫だろう。僕も音ゲーは得意な方だし。  ピコン♪  頭の上に赤いハートが三つ表示される。これがライフかな。 「準備はいいかい? クリア報酬はこの指揮棒だよ~。それじゃあ、ミュージックスタート!」  【START!】の表示とともに、坂の上の巨人にスポットライトが当たる。  シーンとした静けさ。ドクンドクンと心臓の音がうるさい。  スゥーっと息を吸って、巨人が右手を上げる。  次の瞬間––––  ダーーーン!!!  坂の上から光る音符が降ってくる。  それはピアノの音色に合わせて、次々と、これは…… 多すぎる⁉︎ 「おらよっと!」 「おいタケル! なにするんだ!」 「ちょ、ちょっと、重いじゃない!」  大筋君が華麗に避けるが、その先にはチヒロが。  チヒロは隣の指原さんの上に、ドタンと倒れこんだ。その間に音符が命中。  なんという幸先の悪さ。 【MISS!】  という表示とともに、チヒロと指原さんのハートが一つずつ減った。 「おい、お前のせいで––––」 「そんなこと言ってるヒマね~ぞ! 前見ろ!」  本当に、休むヒマがなかった。  巨人は一心不乱に曲を弾き、音符はスキマなく降り注ぐ。 【MISS!】  チヒロと大筋君がまたぶつかって、二人とも音符に当たる。 【MISS!】  今度は僕だ。反応に遅れて音符に当たってしまった。  おかしいな、ゲームだともっと上手いのに。単純に体力不足かな。  息を整えながら、隣の彼女にたずねる。 「指原さん! この曲知ってる? 残りの演奏時間わかるかな?」 「はあ、はあ…… あと、三分くらい、かしら」  三分も⁉︎  たぶん、始まってまだ一分も経っていない。  ハートは残り七つ、どう考えても足りないぞ。 「ああ、もう走れない!」 「チヒロ!」 「ユーゴ、ごめん、後は頼ん––––」 【MISS!】  言い終わる前にチヒロは瞬間移動した。  三作目のゲームにして、初めてのリタイア。僕たちは震えあがった。  大丈夫だよな、現実世界では死なないって、でも、でも…… 「ユーゴ! 前を見ろ!」 「!」  上から降ってきた声に従い、とっさに音符を避ける。  見上げると、そこにはチヒロの姿があった。  空中には僕たちをニヤニヤ顔で見つめるホープ。その横にはネオン色の檻が一つ、チヒロはその中にいた。  そうか、ライフがゼロになるとあの檻に入れられるんだ。  無事でよかったと、ホッと息をもらす。 「おい、どんどん来るぞ!」 「はあ、はあ、も、むりぃ」 【MISS!】  ヘロヘロな指原さんの背中に、金色に輝く音符が当たる。  残りライフは五つ。僕と大筋君が二つずつ、指原さんは一つだけだ。 「ご、ごめん、あたし、足手まといね。せっかく音楽ゲームなのに……」 「チヒロよりは動けてんじゃん!」 「チヒロは、さっきのクイズで、頑張ったから。はあ、はあ」  指原さんは息も絶え絶えだ。  無理もない、体力オバケの大筋君だって汗だくなんだ。  カラフルな音符が次から次へと降ってくる。上手く避けたと思ったら、避けた先に別の音符が。  目の前に集中すれば、隣の二人にぶつかってしまう。  これは、もう……  ––––絶対にクリアしよう  そうだ、クリアしなきゃいけないんだ。  だって、あの巨人は…… 「ああ、バカ! そっちじゃないってば、もう!」 「うるせぇなあ! ビリは静かにしてろよ!」  上からチヒロの悔しそうな声がする。  ……そうか、簡単なことじゃないか! 「指原さん!」 「な、なに? 残り時間なら」 「音符に当たって!」 「「は?」」 「リタイアしてくれないか!」
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