10人が本棚に入れています
本棚に追加
◇ ◇ ◇
ユーゴに抱きしめられた感覚がまだ残ってる。耳元でささやかれた低い声。
クラスの女子たちがキャーキャー言っていたけど、いまいち良さがわからなかった。
顔がよくても、頭がぶっとんでるのはお断り。
でも、今日一日でわかった。ユーゴは思っていたより変じゃない。
冷静にゲームを分析する姿は、むしろ、かっこいい……
「いやいやいや! 落ち着きなさいミノリ、決めるのはまだ早いわ!」
「……頭がおかしくなったのか」
隣のチヒロがあからさまに引いている。
「あんたの頭はステキよね」
「んなっ! これはボクの趣味じゃない!」
チヒロが真っ赤なツンツン頭を隠そうともがく。
そういえば、チヒロはユーゴと友達になったんだっけ。
喜んであげるべきなのに、心がズンと沈んじゃう。
チヒロは、あたしと同じだと思ってた。自分の意見を曲げない。ズケズケ人にものを言う、そういう人。
「ねえ、どうやってユーゴと友達になったの」
「それはね! 腹を割って話し、本音と本音でぶつかり~……」
チヒロは鼻高々に話し続ける。
本音と本音でぶつかる、か……
うそよ、本音でぶつかったって、嫌われるだけだもの。
目をつぶると、浮かんでくる。最悪な記憶。
––––あーしてこーしてって、ミノリちゃんうるさ~い
––––先生も見てないんだから、ちょっとくらい遊んだっていいじゃん
去年の秋の合唱会。先生に頼まれて、張りきってクラスリーダーを引き受けた。
はじまりは曲決め。難しいものばかり選ぶから「もっと歌いやすい曲にしたら」と言ったら、文句。
次はパート決め。高音が苦手な子を低音パートにしたら、文句。
いざ練習。口パクの子を注意したら、文句、文句、文句……
みんなでいい歌にしたい、それだけだったのに。
返ってきた言葉は……
––––ミノリちゃんのせいで楽しくない
それからは、思うことがあってもガマンした。せいぜいケンカを止めるくらい。
嫌われるのは怖いから。独りぼっちはイヤだから。
「おい、ミノリ! さっさと指示くれよぉ!」
タケルの声で現実に引き戻される。現実って言っても、今はゲームの世界だったっけ。
下をのぞくと、音符の流れがよくわかる。すごい、ユーゴの言ったとおりだわ。
「いくわよ! 絶対に、クリアしてよね!」
「おう!」
「がんばる」
タケルがこちらにグーサイン。
ユーゴは真っ直ぐ前を向いてる。
チヒロは本音でぶつかったから、ユーゴと仲良くなれたって言う。
なら、あたしも……
彼となら……
◇ ◇ ◇
最初のコメントを投稿しよう!