調べの坂

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  ◇ ◇ ◇  ユーゴに抱きしめられた感覚がまだ残ってる。耳元でささやかれた低い声。  クラスの女子たちがキャーキャー言っていたけど、いまいち良さがわからなかった。  顔がよくても、頭がぶっとんでるのはお断り。  でも、今日一日でわかった。ユーゴは思っていたより変じゃない。  冷静にゲームを分析する姿は、むしろ、かっこいい…… 「いやいやいや! 落ち着きなさいミノリ、決めるのはまだ早いわ!」 「……頭がおかしくなったのか」  隣のチヒロがあからさまに引いている。 「あんたのはステキよね」 「んなっ! これはボクの趣味じゃない!」    チヒロが真っ赤なツンツン頭を隠そうともがく。  そういえば、チヒロはユーゴと友達になったんだっけ。  喜んであげるべきなのに、心がズンと沈んじゃう。  チヒロは、あたしと同じだと思ってた。自分の意見を曲げない。ズケズケ人にものを言う、そういう人。 「ねえ、どうやってユーゴと友達になったの」 「それはね! 腹を割って話し、本音と本音でぶつかり~……」  チヒロは鼻高々に話し続ける。  本音と本音でぶつかる、か……  うそよ、本音でぶつかったって、嫌われるだけだもの。  目をつぶると、浮かんでくる。最悪な記憶。  ––––あーしてこーしてって、ミノリちゃんうるさ~い  ––––先生も見てないんだから、ちょっとくらい遊んだっていいじゃん  去年の秋の合唱会。先生に頼まれて、張りきってクラスリーダーを引き受けた。  はじまりは曲決め。難しいものばかり選ぶから「もっと歌いやすい曲にしたら」と言ったら、文句。  次はパート決め。高音が苦手な子を低音パートにしたら、文句。  いざ練習。口パクの子を注意したら、文句、文句、文句……  みんなでいい歌にしたい、それだけだったのに。  返ってきた言葉は……    ––––ミノリちゃんのせいで楽しくない  それからは、思うことがあってもガマンした。せいぜいケンカを止めるくらい。  嫌われるのは怖いから。独りぼっちはイヤだから。 「おい、ミノリ! さっさと指示くれよぉ!」  タケルの声で現実に引き戻される。現実って言っても、今はゲームの世界だったっけ。  下をのぞくと、音符の流れがよくわかる。すごい、ユーゴの言ったとおりだわ。 「いくわよ! 絶対に、クリアしてよね!」 「おう!」 「がんばる」  タケルがこちらにグーサイン。  ユーゴは真っ直ぐ前を向いてる。  チヒロは本音でぶつかったから、ユーゴと仲良くなれたって言う。  なら、あたしも……  彼となら……   ◇ ◇ ◇
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