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指原さんとホープの先に、女の人がいた。ソファーで眠っているみたいだ。
「やっぱり、あの巨人はお母さんだったんだね」
「え、気づいてたの⁉︎」
「うん、なんとなく」
「言ってくれたらよかったのに」
僕はポリポリと頭をかく。それはこっちのセリフだよ……
「指原さんが隠してるみたいだったから、黙ってた」
「え…… やっぱり、ユーゴってすごいのね」
「へ?」
めんどくさいから放っておいた。
それだけなのに、なにがすごいっていうんだろう。
「ユーゴはあたしのために黙っていてくれたんだ」
「え、いや……」
めんどくさかっただけデス……
「あたしは、あーしろこーしろって。指図するばっかり」
「……」
「だから嫌われるんだよね、直さなきゃなあ。あ、はは……」
指原さんは口をヒクヒクさせて笑う。
なんだろう、ぜんぜん可愛くない。大筋君を叱っている時の方が、よっぽどキラキラしている。
彼女の考えが、ちっともわからないや。僕になにを求めてるの?
そうだね、君は友達が少ないよねって言ってほしいのかな。どう考えても僕の方が少ないのに。
ああ、ゲームみたいに選択肢が表示されたらいいのにな。明らかにこれが正解だろうって選択肢が。
今日は本当に色んなことが起きすぎて、なにを言うのが普通なのか、考えるのも疲れてきた。
……ならもう、正直な気持ちを伝えよう。
「去年の合唱会、覚えてる? 指原さんがクラスリーダーだったやつ」
「……うん」
「ピアノ弾きながら、口パクの子に向かって怒ったよね」
「……うん」
「僕、尊敬した」
「へ⁉︎」
指原さんは大きな瞳をさらに見開いて、僕を見る。
「僕、口パクしてた子の隣だったんだ。なのに、ぜんぜん気づかなかった。あれをピアノを弾きながら見つけるなんて」
「いや、そんなの……」
「曲も、パート決めもさ。全体の実力とか、一人一人の特徴をちゃんと見て、一番いい選択を取れる。それって、本当にすごいと思う」
ゲームでも同じだ。目の前のタスクをこなしつつ、全体を見る力。それは、クリアを左右するほど大切なことなんだ。
「ボロボロだった歌声がどんどん上達していく感じがさ、ゲームを攻略してるみたいで…… 僕、初めて合唱会を楽しいって思えたんだ」
「っ! ……でも、それが嫌って人がたくさんいて、だから、その……」
指原さんは目をウルウルさせている。
傷つくことなんて言ってないはずなんだけどな。
もっとはっきり言った方がいいのかな?
「他の人のことは、ごめん、わからない。でも、僕は嫌だなんて思わないよ」
「ひっ(僕は、スキだよ⁉︎)」
「だから、僕には思ったことをそのまま言ってほしい(考えるのめんどうだし)」
「ひぃ!(素直になれよ⁉︎)」
「指原さんがいたからクリアできたんだよ。だから、落ち込む必要ないと思う」
「ひぇぇ!(お前がいなきゃダメなんだ⁉︎)」
指原さんの顔がどんどん赤くなって、後ろに倒れそうになる。僕が支えると、彼女はまた「ひょええぇぇ!」と変な声を出した。
頑張りすぎて熱でも出たのかな。ホープって回復魔法とか使えるかな。
助けを呼ぶために僕が立ち上がろうとした、その時。
「……い、いいわ!」
「え?」
「でも、まずは友達からよ! お互いのことを、もっと知ってからじゃないと!」
「な、なんの話? とも、だち?」
「なによ、嫌なわけ?」
指原さんがギロリとにらむ。
「い、嫌じゃない、デス。でも、指原さ––––」
「その呼び方もやめてよね。他人みたいじゃない」
僕たちは、他人デショ?
「ちゃんと名前で呼んで」
「……えーっと」
「よ・ん・で」
「……ミノリ?」
「えっへへ~。これからよろしくね、ユーゴ♪」
ピロン♪
【ミノリが仲間になった!】
さし…… ミノリは嬉しそうにスキップで坂を下りていく。
熱じゃなかったんだ。
いや、高熱だから、友達だなんて言ったのかもしれない。そうに違いない。
「はあぁぁぁ」
ヘタリとその場にしゃがみ込む。
またやらかした。一体どこで選択肢を間違えたんだろう。
やっぱり、現実は激ムズだ。
「……でも」
今の笑顔の方が、ずっといいや。
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