10人が本棚に入れています
本棚に追加
家の近い生徒同士、いっしょに登下校すること。
ゾンビ事件を受けて、学校が作ったルール。
こんな決まりさえなければ、あの三人と関わったりしないのに。
「うわ、すっげぇ」
「四天王がそろったぜ」
「頭脳、芸術、体力に顔、いーよなー」
見物人がはしゃぐ。水族館のイルカじゃないんだぞ。
最近よく、この「顔」ってのを耳にするけど、一体なんのことだろう。
多分、あれかな。
––––くくく、ヤツは四天王の中でも最弱……
ってやつの最弱、それが僕。
一番最初にやられる敵だから、四天王の顔ってこと?
こういう弱キャラってどこか憎めなくて、けっこう好きなんだよね。
だから、まぁいっか。
……いや、ぜんぜんよくない。
三傑とか、ビッグスリーでいいじゃん。僕を数に入れないでよ。
頭の中で文句を言いながら、三人の元へ急ぐ。
「ごめん、おそくなった」
「どうせボーッとしてたんでしょ」
「いーじゃんか。かえろーぜ!」
「だ・か・ら、なんでタケルがいるんだ! 今日は飼育当番の日だろ」
本庄君がまゆを吊り上げる。
大筋君はめんどくさそうに頭をポリポリ。
「しつけぇな~。フルヤンが逃げたんだよ。だから当番もなくなったの」
「え、フルヤンが?」
僕は驚いて聞き返す。フルヤンとは学校で飼育している名古屋コーチンのことだ。名古屋だから、フルヤン。
ずいぶんなお歳で、逃げ出すような元気はないはずなのに。
「そっ。今朝そうじのオジサンが見た時にはいなかったんだと。フェンスに穴が空いてたらしいぜ」
「イタズラかしら」
「俺様が思うに、フルヤンはゾンビ化したんだ!」
「まったく、本当にバカだな。そうやって、なんでもかんでもゾンビ化だと思い込んで、不審者ヘの警戒心がおろそかになれば––––」
「あ~わっかんね~聞っこえね~」
「お前ってやつは!」
二人がとっくみ合いのケンカをしそうになるのを、指原さんが「いい加減にしなさい!」の一言でとめる。
周りが一層おもしろそうに僕たちを見る。あ~、めんどくさい。
一刻もはやくゾンビ事件を解決して、こんな目立つ三人とはおさらばしたい。
そして一人でそそくさと帰って、快適な我が家で思う存分ゲームをするんだ。
僕は心の中でこぶしを握りしめた。
必ず、この手に日常を取り戻すんだ!
最初のコメントを投稿しよう!