始まりの川辺

4/9
前へ
/56ページ
次へ
 家の近い生徒同士、いっしょに登下校すること。  ゾンビ事件を受けて、学校が作ったルール。  こんな決まりさえなければ、あの三人と関わったりしないのに。 「うわ、すっげぇ」 「四天王がそろったぜ」 「頭脳、芸術、体力に顔、いーよなー」  見物人がはしゃぐ。水族館のイルカじゃないんだぞ。  最近よく、この「顔」ってのを耳にするけど、一体なんのことだろう。  多分、あれかな。  ––––くくく、ヤツは四天王の中でも最弱……  ってやつの最弱、それが僕。  一番最初にやられる敵だから、四天王の顔ってこと?  こういう弱キャラってどこか憎めなくて、けっこう好きなんだよね。  だから、まぁいっか。  ……いや、ぜんぜんよくない。  三傑(さんけつ)とか、ビッグスリーでいいじゃん。僕を数に入れないでよ。  頭の中で文句を言いながら、三人の元へ急ぐ。 「ごめん、おそくなった」 「どうせボーッとしてたんでしょ」 「いーじゃんか。かえろーぜ!」 「だ・か・ら、なんでタケルがいるんだ! 今日は飼育当番の日だろ」  本庄君がまゆを吊り上げる。  大筋君はめんどくさそうに頭をポリポリ。 「しつけぇな~。フルヤンが逃げたんだよ。だから当番もなくなったの」 「え、フルヤンが?」  僕は驚いて聞き返す。フルヤンとは学校で飼育している名古屋コーチンのことだ。名だから、フルヤン。  ずいぶんなお歳で、逃げ出すような元気はないはずなのに。 「そっ。今朝そうじのオジサンが見た時にはいなかったんだと。フェンスに穴が空いてたらしいぜ」 「イタズラかしら」 「俺様が思うに、フルヤンはゾンビ化したんだ!」 「まったく、本当にバカだな。そうやって、なんでもかんでもゾンビ化だと思い込んで、不審者ヘの警戒心がおろそかになれば––––」 「あ~わっかんね~聞っこえね~」 「お前ってやつは!」  二人がとっくみ合いのケンカをしそうになるのを、指原さんが「いい加減にしなさい!」の一言でとめる。  周りが一層おもしろそうに僕たちを見る。あ~、めんどくさい。  一刻もはやくゾンビ事件を解決して、こんな目立つ三人とはおさらばしたい。  そして一人でそそくさと帰って、快適な我が家で思う存分ゲームをするんだ。  僕は心の中でこぶしを握りしめた。  必ず、この手に日常を取り戻すんだ!    
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加