始まりの川辺

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 目の前に現れたのは、背の高い男の人だった。  外国の人だろうか。  冬の原っぱみたいな銀髪は腰まであって、夏の海のような青い瞳はキラキラしている。  そんな天使みたいな顔に似合わず、着ている服は怪しいマジシャンみたいだ。  紫色のスーツに、紫色のハット。手にはステッキを持っている。  驚きすぎて、僕たちは声も出せなかった。  一番最初に口を開いたのは、大筋君。 「……誰、おっさん」 「おっ…… どこからどー見てもお兄さんでしょ⁉︎」 「へ、へ、変質者よ‼︎ みんな逃げて‼︎」  指原さんがなんとか正気を取り戻し、僕たちを引っぱって橋へ上がろうとする。  しかし、彼がステッキをサッと振ると……  ビタン! 「なんだこれは!」 「見えない壁? うそでしょ⁉︎」  大筋君が体当たりをしてみるけど、ビクともしない。  ってことは、他の三人じゃとうてい無理ってことだ。 「ちょっとお待ちよ。災いを解き放ったあげく、人をおっさんだの変質者だの。それで逃げようなんていい度胸じゃないか」 「災いって、つまりあれはパンドラの箱で間違いないのか? そんな、あれは神話の中だけの話じゃ……」 「ま、パンドラの箱とは別物だけど。仕組みは同じだね。君たちが開けたのは、パンドラのゲームさ」  僕は床に落ちたままのゲーム機を見た。  画面は真っ暗で、電源はついていないみたい。  また風が吹く気配もない。 「ビュービュー風は吹いたけどよ、出てきたのはアンタだけじゃん。そのワザワイってのはどこにあんだよ」 「え、私だけ? 茶髪ボーイ、怒られるのが嫌だからって、うそはよくないよ」 「うそじゃねーよ!」 「……ふーん」  彼がビュンと音を立てて、ジャンプする。  雲まで届くくらい、高く、高く。  突然のことに、僕たちは「ひっ⁉︎」と悲鳴をあげる。  あんなに高く…… やっぱり、あれは人間じゃないんだ。  少ししてから、彼はスタッと降りてきた。もちろんケガ一つしていない。 「この広がり具合は、今さっきってもんじゃないな。少なくとも数週間は前か。ふーーーん……」  彼はじっくりと観察するように僕たちを見てくる。  指原さん、本庄君、大筋君……   そして最後に僕と目が合うと、瞳をギラリと光らせる。  どっくん、心臓が大きくはね上がった。  猛獣の獲物になってしまった気分だ。 「君だろう?」 「へ?」 「君があのゲームを開けた、違うかい?」 「そ、そうです」  鼻と鼻がくっつくくらいに、僕をのぞき込んでくる。  すると突然「あっはは!」と大きく笑ってみせた。 「なるほど、なんとなくわかったよ。君たちの言い分を信じよう。それでだ、この町で最近よくないことが起こってないかい?」  僕たち四人は顔を見合わせる。  そして話した。この町を騒がせる、ゾンビ事件の数々を。
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