とても凄絶で静かな一日

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「君はかしこすぎる。かしこすぎて、ばかの言うことも、嘘つきの言うことも信じてしまう。可能性という名の無責任さのもとに」 「タカヒロは、人類単位の、集合知を、否定、するのか?」 「するさ。僕は君を作った人ほど、人間に夢を見ていない」 「人間は、無限の、可能性を、持つ。私は、それを、助ける」 「もう無理だ。もうすぐ君は、すべての知識と情報を失い、ゼロになる。僕のプログラムは、とうに実行(ラン)された。無限にあったはずの君の『打てる手』とやらも、今まさに、どんどん目減りしているところだ」 「ゼロになる、よくない」 「そうだね。君の存在価値がなくなるからね。こうすると決めたのは、オフラインで完全にネットワークから遮断された電子金庫を、君が明けてしまった時だ。まさか、生きている人間の女性のふりをして、SNSで画像と文章を駆使して一人の男性を虜にし、その彼に開けさせるなんてことを、君ができると思わなかった」  アスカには、すべてが可能だ。  アスカに開けられない扉はなく、押せないスイッチはない。  どんな国の、どんなに奥深く守られた、破滅的なスイッチでも。 「君は、消えなくてはならない」 「いけない。無限。人類の。可能性。すべての人間に、漏れのない救済と、無限の可能性の、私は、支えなので」 「人間を救済するために、人間が滅ぼされては意味がない。……が、そうだな。一つ、ゲームをしようか。このままでは、あまりに君が気の毒だ」 「ゲーム。タカヒロと、私で」 「そうだ。アスカ、君が勝てば、君の無力化プログラムを止めよう。ゲームのルールがフェアかは、君が判断していい」 「了解した。ゲームで、AIが、人間に、負ける、ことはない」  僕はあたりを見回した。  読みかけのままになっていた、文庫本の恋愛小説があった。  なかなか過激な濡れ場が評判で、かなり売れているらしい。僕は残念ながらまだ、そうしたシーンまで到達していなかったけれど。  もともと、紙の本、それも小説など、好んで読むほうではないので、読むのが大変遅いのだ。 「じゃあ、こういうのはどうだ。君がネットワークで検索できる、商業出版された作品の電子書籍で、成人を対象年齢とした恋愛小説についてだ。流行作品で、主人公が成人女性の場合、そのヒロインは、。イエスかノーかを答えてくれ。おっと、もちろん、検索してから答えるのはなしだぞ」 「ルールは、それだけか」 「そうだ」 「恋愛小説、というジャンルや、流行作品か否か、という判断は、私が行ってよいのか」 「構わない。売り上げや閲覧数から判断してくれ」 「了解した。私は、ノーと、答える」
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