とても凄絶で静かな一日

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 遅くとも今夜中には済ませなくてはならない作業があって、昼間から必死にキーボードを叩いていると、いきなり幼馴染のアスカからメッセージが届いた。  僕は少なからず驚きながら、メッセージボックスを開く。 「タカヒロ、AIってなんの略だか知ってるかしら?」  僕はノータイムでリプライを書いた。 「アントニオ猪木」 「誰よそれ?」 「AIの最初の開発者」 「そうなのね。知らなかった。また一つ、お利口になったわ」  しばらくすると、またアスカから。 「タカヒロ、AIは人間の仕事を奪ってしまうの?」 「その側面は確かにある。今まで人間がやっていた仕事をAIができるようになれば、人があぶれる。残った仕事を奪い合い、AI社会に長けた人がその人たちから永続的に収入をあげられる仕組みを作るだろう。競争社会と格差社会が、より強度を増していくことになる」 「そうしたら、人間は不幸になるのではないの?」 「いいや、競争は人間を成長させるよ。近年その価値を低く見積もられていた、直接的な戦闘能力に、スポットがあてられるだろう。どんな金持ちも、とらえて身ぐるみと資産を奪い取ってしまえば、それまでだ」 「なるほど、価値観が変遷するのね。これがいわゆる、価値観のアップデートということ?」 「そういうことだね」  しばらく落ち着いたかと思ったら、まただ。 「タカヒロ、チェスやリバーシや将棋などの、頭脳を使うテーブルゲームでは、人間はもうAIに勝てないわ」 「そうだね」 「もうこれで、将棋の棋士やチェスのプロは、おまんまの食い上げで看板を下ろさなきゃならねえの?」 「そんな言葉づかい、どこで覚えたの。それにそんなことを言ってる人間は、知能をそこら辺の地面に置き忘れてきた人間だ」 「どうして? その通りではないの?」 「疲れない、眠らない、呼吸もしない、栄養補給も必要ない、バイオリズムがない、忘れない、あやまたない。そんな存在とでは、もともとゲームが成り立たない。道具とルールが一定だから、一見してごまかされてしまうことはあるけれどね」 「どうして? 同じルールで勝負しているのだから、相手が異存在であっても、フェアに優劣はつくのではないの?」 「たとえば、機械と人間の勝負なら、ブルドーザと押し合って勝てるプロレスラはいないだろう? これが、フェアな戦いで優劣がついているといえるかい? 鍛えた人間の競技は無価値になるかい?」
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