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●3:ドラマティック・ドゥーム
朝日が射し込む洗面台。男は、目の前の鏡をまじまじと覗き込む。
浅黒い肌、脱色したキンキンの髪は、前髪と襟足だけイキったように長く、他は刈り上げられている。鋭く人相の悪い目付きの瞳はやや緑を帯びた青い色。男らしい輪郭の顎には髭。耳にはいかにもゴロツキ系の人間が好きそうな悪趣味ピアス。服装もヤカラ感のある柄シャツと……もうほんと、場末のチンピラ。
「……」
マタイオスは『素顔』の前で、あれこれ表情を作ってみせる。笑ってみたり、睨んでみたり、変顔をしたり、真顔になったり、キメ顔をしたり、いろんな角度から。
「はあ……」
ひとしきり顔芸をしたところで、マタイオスは溜息を吐いた。なんか顔を見てたら思い出すことでもないだろうかと思ったが、何の成果も得られなかった。それにしても脳は別の場所にあるのに、こうやって『子機』を遠隔操作するのは変な感じだ。本当に、よくできたVRゲームのようである。
「……そういえば今思ったんだけどさあ」
洗面所から居間へ――ここは『博士の無人島』のコテージ内。テーブルではラジエラが朝食をとっている。昨夜の魚の残りの身をカルパッチョにして、それを例の栄養バーと紅茶と一緒に味わっていた。
彼女の服装はいつもの赤いドレスではなく――黒いスキニーパンツに、上は黒のタートルネックにノースリーブ、首元を彩る華やかなスカーフ、足元は真っ赤なパンプス。ドレッシーでフェミニンないつもの姿と違って、クールでスラリとした印象だ。
「町にはどうやって行くんだ? 船? 飛行機? もしかしてワープ?」
「車」
「……海だぞ?」
「飛ぶ車だから」
「ははーん……」
ごちそうさまでした、とラジエラは食事を終える。後の処理はロボットによる全自動。気楽なものだ。「歯磨きしたら出発するから、もう少しだけ待ってて」とすれ違う。
「へいへい」
マタイオスは肩を竦め、コテージ居間のシックなソファに我が物顔で腰かけた。
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