●4:残念賞で残念でした

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 そういう経緯で、イワシタルとサロナは協力することになった。  サロナは人質役。カンダの動きを封じつつ、彼の心をいたぶる為の。イワシタルにもサロナにも得がある作戦だ。かくしてそれは上手くいった、のだが――。  致命的な誤算。  カンダの狂気的な恋の熱がもう冷めていたこと。  サロナは自分に夢中じゃない男には興味がなく、あまりにも身勝手で我慢のできない性格だったこと。  そして――上空に待機していたラジエラが、好機を見逃すような凡才ではなかったこと。 「突っ込む。掴まって」  リムジンの中、ラジエラが鋭く端末を操作する。 「え? あ? ハ!?」  力二が事態を飲み込みきる前に――リムジンからウイングが展開されるや、ブースターを噴かせて高速飛行。凄まじいGに力二が悲鳴を上げる。リムジンの銀翼が青空にギラリと光った。刹那――その鋭利な翼が、イワシタルのロボの手首を切断した。 「っ!?」  イワシタルに、サロナに、カンダに驚愕が奔る。 「カンダ!」  男の意識を引き戻すのは、いつだってラジエラの声。 「くっ――おぉおおおおおおお!」  ウドンは脳波で動く。だからカンダは叫ぶように願った。動け――動け! さすれば地面に落ちていた腕がひとりでに動き、跳ね、落下しつつあったサロナを掴み、もう片方の腕と共にカンダの千切れた方へと戻った。 「……よくもやってくれたなあ~~~~~」  いろいろ。「どういうこと?」と確認したいことはありまくるけれど。  今はまず、反撃のお時間だ――イワシタルを睨みつける。再生した手を開いて閉じて、動作確認。そして。 「『ギガンティック神つよストロング一撃必殺パンチ』!」  声と共にカンダの右腕が変形する。巨大に、杭打機のように。 「く……!」  イワシタルが4本腕を構える。それはシールドのように広がってその身を護らんとする、けれど。 「おらぁあああああああッ!」  全く構わずブチ当てる右ストレート。それは命中地点に衝撃波を叩き込む、外から中から破壊する、一撃必殺の名に恥じぬ一撃。 「ぶッ……!」  衝撃はコックピット内にも響いた。脳味噌がぐわんと揺れて、イワシタルの意識と視界もぐにゃりと歪む。  その瞬間だ。カンダの貫手がイワシタルの機体を貫通し――コックピットにまで到達する。イワシタルが「マズイ」と思った時にはもう遅い、白いマニピュレーターが彼を掴んでコックピットから無理矢理の力尽くで引きずり出した。 「な、ぬ、わっ」  今度はイワシタルが、サロナにしていたように掴まれて宙ぶらりんになる番だった。サッと脳に過ぎるのは『ゆっくりじっくり肉団子の刑』。あっまずい私死んだ――と血が凍りつく心地。恐怖。 「おまえなんか……」  カンダの声は怒りで震えていた。表情を作らぬはずのモノアイが、至近距離でイワシタルを睨みつける。 「おまえなんか……」  マニピュレーターにわずかに力がこもり、そして。 「おまえなんかこうだーーーーーッ!」  カンダは腕を振り上げた――ボスの邸宅跡地、無事だったラグジュラリーなプールへ、ジャブっとイワシタルを浸ける。水没させる。 「!?」  まさかの措置にイワシタルは驚いた。だが――水底で1分もすれば…… 「……がぼぼェ! がぼぼぼぼごヴぉぅええ!」  首からボコボコ溢れる気泡。極まった身体改造をしてようが呼吸はする。なので全身を水に沈められれば窒息する。窒息すれば、失神する。人間なんてそんなもんだ。 「ヴぉへッ……」  ジタジタしていた足が腕が止まる。噴き上がる気泡もなくなる。カンダはザバリとイワシタルを引き上げた。殺してはいない。気絶はさせたが。ホントは殺してやりたいが……苛立ちは舌打ちに込めた。 「チッ! 二度と歯向かうんじゃねえクソ野郎」
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