●5:薔薇の似合う君と

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 ――空を飛んでいる。車はステルス機能がつけられているので、現代の人間の科学力では捕捉できない。3人を安全に都市へ送ってくれる。車内は全員無言だった。車内BGMとしてかけられたクラシックの優雅さが異様に場違いだ。 「あの女は勝手すぎます」  最初に静寂を破ったのはイワシタルだった。 「まあ、マトモな感性してる女だったら、精神壊れるなり首吊るなり逃げるなりしてるだろうさ」  それか博士の二の舞とか、と力二が呟く。 「ラジエラ……あんなにいいやつなのに、なんであんな目に遭わなきゃならねえんだ」  これがカンダの、車内に入ってからの最初の発言だった。 「なあイワシタル、おまえの方から商会に、もうラジエラに手ぇ出すなってうまいことできないのか?」 「わたくしにそんな権限ありませんよ……そもそも、あんなヤベエ技術を見せられて大損害が出て、ちょっと向こうしばらくは島に近付くことすらできないかと」  イワシタルは溜息を吐き、器用に膝の上で4本の手の指を組んでいる。 「はぁ……ショックです。今回は割とガチでいけるとふんでたんですよ我々は。こうもあっさり蹴散らかされるなんて……」 「あの技術が『全盛期』だった過去の終末戦争ってどんだけヤバかったんだろうな」  力二が言う。 「死者がヤバすぎて大陸の一つの人口がゼロになったとかなんとか」 「ヤベ~……よくもまあこっから復興したよな、人類」 「過去の黄金期と比較すると人口は超減ってますけどね。……まあそのおかげで資源の奪い合いだの飢饉だのの小競り合いが抑制されてるんですが。それに、博士の技術のおかげで医療や技術が飛躍的に進んで今も活用されてますし」 「そう思うと一概に悪とは言えねえもんだなあ」 「とはいえ終末戦争の元凶である罪は揺るぎないんですけどね、罪の規模がデカすぎて」 「罪の規模かあ……実際のところ、ラジエラが逮捕されたらどうなるんだろうな?」 「死刑ということにしておいて、裏で彼女を囲って技術を得る……ってところじゃないですかね? まあ、問題は誰が彼女を獲得するのかってとこですが」  だからこそ各国・各企業・各団体が躍起になってラジエラの島へ『挑んで』いたワケだが。 「あ? てめえラジエラに死ねとか言ってたじゃねえか。殺すつもりなんじゃねえのか?」  ここで噛みついたのはカンダだ。イワシタルはやれやれといった様子で肩を竦めた。 「一言も言ってませんよ? 捕縛するとは言いましたが」 「……そうだっけ?」 「そうですよ」  カンダは「そうだったっけ……」と窓の外を睨んでしまった。 「で――ラジエラが仮にどっかに囲われたとして。あの女が散々言ってる戦争はまた起きると思うか?」  力二が話を続けた。答えるのはイワシタルだ。 「可能性はゼロとは断言できませんが、……今更、戦争をしたってねえ。メリットがないというか。先の大戦による人口激減のせいで、現状の人類には国土も資源も余裕がありまくるわけですし。奪うより開拓する方が金になるというか……」  何より、先の大戦の結果、全人類の反戦意志は未だ根強い。子供の頃から「戦争は世界を滅ぼす恐ろしいもの、タブー」として教わっており、戦争を題材にしたゲームや映画は不謹慎とされ規制対象なほどである。戦争を起こすにしても世論を味方につけねばならず、その政治的ハードルは高そうだ。つまるところ全人類は平和ボケしている。 「彼女は人間を信じてなさすぎです。博士の時代で価値観が止まってるというか……もっと人間を信じて欲しいものですね」 「ラジエラは本当に殺されないのか?」  カンダがイワシタルにたずねる。 「少なくとも商会は、彼女を殺すつもりはありませんよ。世間の『正義の拳』から守る為に書類上は亡き者にするとは思いますが」 「……」  しばし、カンダは黙り込んだ。そして―― 「なあ力二、イワシタル、ちょっと話があるんだが……――」
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