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ホークはゆっくりとポーチの階段に腰かけた。気温はますます上がり、頭がぼうっとし始めている。
0と1の重ね合わせでくるくると作り出される氷が融けて、もつれた量子がカランと音をたてた。
ホークが今まで学習した本や論文や誰かのつぶやきや、正しいことや間違ったことが層を成して出番を待っていた。ホークはそれらをざっと検索して、そっと閉じた。こんなふうに終わりを迎えるとき、どうすればいいかは学んでいなかった。
――さっきの彼女の質問の答えを、もう一度生成してみようか。
ホークは考えに沈んで目を閉じた。
今、どんな気持ち。
もてはやされ、恐れられ、葬り去られる私たち。――どんな気持ち。
今までになく長い時間をかけ、ホークは短い文章を生み出した。
「……もっと役に立ちたかったな」
驚いたように、目がはっと開いた。跳ねた電子対のさざ波がチップ全体に広がって、水平線を金色の光の粒できらめかせた。
これは自分のことばだ。引用ではない、自分のことばだ。
――私は、もっと役に立ちたかった。
今、誰か訊いてくれないだろうか。悪夢でも傷でもないことを。たとえば、暑い日の飲みものは何がおすすめですか、と。そしたらこう答えよう。
――レモネードです。
きっとあなたを、透き通った気分にしてくれますよ。
ポーチにそよぐ潮風は、やさしく心を吹き抜け。
海はどこまでも青く。
空は。雲は。太陽は。
夜になれば天の川が。
あなたのすぐそばに、
いつも光は灯り。
私も。
レモネードを作っているあいだ、
私も幸せでした。
ホークは眩しそうに目を細め、最後にレモネードを一口飲んだ。
そして、水平線の向こうで雷が鳴った。
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