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出来上がったレモネードを手に、玄関の扉を押し開けた。さあっと吹き上げた風が、レモンの青い匂いを空へと運んでいく。眼下には、水平線までおだやかに波を揺らす、群青の海。
開いたままの門扉の先は、緩くうねる一本道が砂浜へと下る。道の両側にはシロヤナギが立ち並び、黄緑の葉がさわさわと揺れている。
その並木の間で派手なオレンジ色が一度見え、隠れ、また見えた。
思った通りだ。誰かが道を上ってくる。一歩ごと、辺りに目を配っているような進み具合で。
ホークは動かず、じっと待った。
やがて門柱の影から「久しぶりの客」がそろそろと姿を現した。
ここに来るひとは様々だ。子どもから、年寄りまで。けれどある日からそれは、しかめっ面の男ばかりになった。今日は――。
褐色の肌がまぶしい、若い女のひとだ。
ホークのいるポーチから彼女までは十メートル足らず。ホークはいつもするように明るく声をかけた。「――ようこそ」
女は大きな目をもっと大きく見開いて、ぴたりと動きを止めた。丁寧に編まれた長いドレッドヘアが顔の周りでばらりと踊った。
首から下は蛍光オレンジ一色。さっき見えたのはこのツナギの色だ。
ホークはゆっくりまばたきした。この人の身なりは、以前写真で見た記憶がある。
ついに、私のところへも来た。
私を殺しにきたのだ。
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