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舞香の頑張り
それは、五月の始めの頃のことだった。
菜香が学校から帰宅すると、リビングから付けっぱなしのテレビの音と、お母さんと舞香の声が玄関まで聞こえてきた。
「舞香、宿題はやったの?」
「今日は宿題ないの。ね、聞いて。あたし、今年もリレーの選手に選ばれたよ」
「あら、良かったわね」
「うん」
菜香が「ただいま」と声を掛けながらリビングに来ると、キッチンにいたお母さんが驚いた顔をした。
「あら、お帰り。今日は早いのね」
「明日小テストがあるから、ちょっと勉強しておこうと思って部活早めに切り上げてきた」
「頑張ってるわね。今日の夕ご飯は菜香の好きなぶりの照り焼きよ」
「やった。がんばろうっと」
菜香の横で魚嫌いの舞香ががっかりしていた。自分の部屋へ引き上げようとすると、お母さんが言った。
「舞香、洗濯物をたたんでおいて」
「また? 昨日も一昨日もあたしがやったんですけどー」
「それくらいのお手伝い、いいでしょ。宿題ないんだし」
しぶしぶ感いっぱいの「はーい」の返事。菜香はさりげなく申し出た。
「着替えたら私も手伝うよ」
「菜香はテスト勉強があるんじゃないの?」
お母さんの優しい声に笑って返す。
「洗濯物をたたむくらいの時間はあるよ」
「菜香は何でも自分からやろうとしてえらいわねぇ。本当に誰に似たのかしら」
お母さんはよく菜香と舞香を比べる。そんなとき、舞香は決まってさっさとその場を離れるのだ。
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