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菜香の話はそこまでだった。聞き終えて、拓也は真面目な顔つきになった。自主練までしていた舞香は、拓也の走りが歯がゆかったに違いない。ムキになっていたのも納得できる。
「でもさ、おれだって揉めたくなかったんだよ。小学生最後だから、楽しくやりたいのに。なのにどうしてうまくいかないんだろう」
悔しくて思わず声が震えてしまった。隣から優しい声音が響く。
「私、運動は苦手だけど、焦っちゃう気持ちは分かるかも」
舞香から菜香は成績が学年トップなのだと聞いたことがある。そんな彼女にも焦ることがあるのかと、意外に思った。
「気持ちが空回りしているんだよ。きっと舞香も同じだと思う」
「舞香も……?」
「うん。うまくいかないのは拓也くん一人のせいじゃないって分かっているはずだよ。何とかしたいのに、その方法が分からなくてもがいているんだと思う」
「……」
もう少し話し合うべきだったなと思って俯くと、菜香が覗き込むようにして言った。
「運動会はこれからでしょ? まだ終わりじゃないよ。何かいい方法がないか私も考える。だから諦めないでね」
「うん」
自宅が見えてきて菜香と分かれた。ほんの少しだけ、拓也の気持ちが軽くなっていた。
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