運動会

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運動会

 あれから舞香とは話す機会もなく、運動会の日がやってきた。もやもやした気持ちは残ったままだ。  朝起きてすぐに空模様を確認したら、今にも降り出しそうな曇。どんなに雲が濃くても雨が降っていなければ開催だ。 「なんだかなぁ。天気までイマイチなのかよ」    肩を落とす拓也の側で、父さんはあちこちに散乱している物を忙しなく拾っている。早朝の便で日本に到着した母さんが、電車とタクシーで家に向かっているとの連絡があったのだ。整理整頓にこだわない父子が暮らす家の中は決してきれいとは言えない。朝早くから片付けをしているのはそのためだ。  自分で用意した朝食のトーストとバナナを食べ終えると、トイレの掃除をし始めた父さんに声をかける。 「行ってきまーす」 「もう行くのか。後からお母さんと一緒に行くからな」    来ても活躍する姿を見せられそうにないのに。そう思いながらも普段と変わらない返事をする。「うん」    登校する児童たちもどこかそわそわした足取りで校門を抜けていく。  数年前から運動会は午前中だけで終わるようになった。各学年の競技と徒競走、応援合戦、そして最後にリレーだ。  係の仕事を受け持っている高学年は、自分の席でのんびりしていることが少ない。道具係の拓也も用意や片付けで校庭を行き来する。    幾つかの種目が終わった後に保護者スペースを見たら、父さんと並んで立つ母さんの姿が見えた。東洋系アメリカ人の母さんは周囲に溶け込んでいる。服装は白いシャツに青のデニムを履いていた。いつもは赤いキャップに黄色の派手なTシャツを着てくるような人だったが、今日は信号機のような服装ではなくまともな格好だ。  じっと見ていたせいか、母さんと目が合ってしまった。子供のような笑顔で手招きをされて、仕方なく近寄っていく。伸ばした手が届かないくらいの距離で立ち止まった。
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