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リレーの選手に選ばれて
五月晴れの空の下、海波小学校の校庭ではホイッスルの音が響いていた。
白線を突っ切った拓也に、ストップウォッチを握った先生からタイムが告げられる。
「7,28」
すでに走り終えて見ているクラスメートから「おお」という驚きの声が上がった。
「はええな、さすが拓也だ」
男子からそう声をかけられるのは嬉しい。六年生の五十メートル走のタイムとしてはかなり速いのは知っている。だからと言って自慢するのは格好悪い。赤白帽を被り直し、照れかくしに言う。
「去年とそう変わってないよ」
「つまり、去年も速かったってことだろ」
「でもさ、おれより速いやついるし」
「お、うわさをすれば、次だぞ」
すぐにコースの走者に目を向けた。クラスの中で頭一つ分ほども背が高く、女子の間ではモデルのようだと言われている。きりっとした顔の河東舞香は、後ろで結わえた長い髪を揺らしながらあっという間に白線を抜けていった。
「7,04」
タイムが告げられると、今度はもっと大きな「うわぁ」と驚きの声が上がった。拓也も唸った。もしかしたら、全国の小学生の中で一番速いんじゃないだろうか。
「ああ、惜っしい。あともう少しで6秒台だったのに」
舞香が握りこぶしをつくって残念そうに言う。拓也は言ってやった。
「6秒台なんて無理だろ」
「そう? もしかしたらいけるかもしれないよ」
その顔は笑っていたが、本気だと分かる。幼なじみで家も近所である舞香のことを拓也は誰よりもよく知っていた。強気過ぎるのが玉に瑕なのだ。仲の良さを勘違いされることがあるけれど、友達以上の感情は一ミリもない。
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