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舞香が意思強く言った。
「あたし後半やりたい」
「オッケー。おれはどっちでもいいからさ」
「そう? じゃ、決まりね」
声が弾んでいる。六年生の後半の走者はアンカーで、一位になればゴールテープを切れる。だからやりたかったのかもしれない。
「そう言えば、運動会の日って拓也のお父さん休み?」
「うん。見に来るって。どうして?」
「もしおじさんが仕事なら、運動会終わった後に拓也も一緒にご飯食べないかって、ウチのお母さんが言うから」
舞香とは家族ぐるみで親しくしているから、父さんに休日出勤が多いことや母さんが海外にいることも知られている。拓也が寂しくないように、色々気を遣ってくれるのだ。
「父さんと二人で食べるから大丈夫。おばさんにありがとって言っておいて」
「残念、拓也が来たら焼肉食べに行けたのに」
「おれはおばさんの手料理の方がいいけど」
「いい子ぶらなくていいよ、らしくないから」
くすくすと舞香が笑うのを見ながら、母さんが見に来ることを思い出した。久々の三人での食事は緊張しそうだ。
「拓也が前半か。おれと一緒だな」
二組の相川が隣に並んで言う。相川も毎回リレーの選手に選ばれている。クラスが一緒になったことはないから、ライバルみたいな存在だ。
「顔なじみでも、手加減しないからね」
「ふん、かとう夫婦には負けないよ」
拓也の名字は加藤、漢字は違うけれど舞香も河東だ。このからかい文句はもう聞き飽きている。
「言ってろ」
軽く受け流したとき「それじゃ始めるよ」と先生の声がけが聞こえた。
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