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「バトンは右手で受け取り、左手に持ち帰る。次の人の右手に上から渡すよ。あと、バトンを渡す時ね。渡せるくらいに近づいたら、次の走者に『はい』って声をかけること」
先生がバトン渡しのコツを教えてくれる。トップコーナー制の説明と、バトン受け渡しゾーンの説明、そして高学年による見本の受け渡しを眺めたあと、ようやく練習開始だ。一年生から六年生まで、間隔を空けて一列に並ぶ。歩くくらいの速さでバトンの受け渡しをするのだ。
「慌てなくていいから、落とさないようにね」
「受け取る側は、なるべく前を見てね」
順番が最後なのをいいことに、舞香が列から外れて低学年に声を掛けていた。毎年練習をしているけれど、そんなことするのを初めて見た。いつになく気合が入っている。拓也が五年生からバトンを受け取る頃にはもう列に戻ってきているのだから、その素早さには本当に驚く。
その後、本番と同じ距離でトラックを走るのだ。
走りたくてうずうずしていた拓也は、この練習を待っていた。
舞香が「一位狙おうね」とガッツポーズをする。言われなくてもそのつもりだ。練習で本気を見せ、低学年に気合をいれてやるんだ。
高学年はトラックを一周、二百メートルを走って次にバトンを渡す。五年生からバトンを受け取った拓也は、ぐっと前へ身を乗り出した。いつもと変わらない走りをしていたつもりが、後ろを走っていた相川に抜かれてしまう。
舞香にバトンを渡したときは三着だった。ゴールした時、舞香は白組を抜かして二着になっていた。
「拓也、まだ足痛むの」
弾んだ息を整えながら、舞香がきいてくる。
「いや、もう痛くない。久しぶりに足を動かしたから、ちょっと鈍っただけだよ」
そう返したのは、本当にそう思っていたからだ。
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