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1-9 焦りと恐怖とプロポーズ アーロン視点
パーティーでのエスコートの権利を手に入れ、自分が見立てたドレスを着てもらえることにもなり。
登下校も一緒!
長年の片思いの相手とこんな展開を迎えたアーロンは、幸せの絶頂にいた。
――ベルはずっと可愛かったけど、今はさらに可愛い!
入学式の日、マリアベルとともに馬車で移動するアーロンは、マリアベルの輝きに感動していた。
髪や肌の手入れもできず、血を浴びていても美しかったマリアベル。
アークライト家の使用人に磨かれた今、完全に「妖精姫」の再来状態であった。
――はー可愛い。可愛い。最高に可愛い!
王立学院の制服に身を包み、「学校楽しみです!」「友達できるかなあ」とわくわくするマリアベルを眺めながら、アーロンは幸せに浸っていた。
ちなみに、制服もアーロンが贈ったものである。
王立学院は、私服での登校も許可されている。
だが、入学式や終業式の日は制服着用と決められているため、制服はどうしても必要だった。
マリアベル自身も、普段から制服のほうが気が楽かも、と話していたため、アーロンから贈らせてもらった。
「姉のおさがりだから、心配いらないよ」
そんな言葉とともに渡した夏用冬用各数着の制服は、全て新品だった。
ちょっと強引かな、と思う場面でも、「姉がいるから」「妹がいるから」と言えば納得してもらえることが多く、アーロンは「姉妹がいてよかった!」とよく感じている。
学園に到着し、馬車が停止する。
馬車で登校する生徒も多いため、門をくぐってすぐのエリアは広く作られている。
アーロンが先におりて、マリアベルに手を差し出した。
「なんだか、王子様みたいです」
そんなことを言って微笑んで、素直に手を重ねてくれる彼女が愛おしくてたまらない。
でれっでれのアーロンだったが、マリアベルが馬車から降りたとたん、周囲の学生たちがざわめき始めたことを感じ取る。
女生徒に大人気だというのに、興味をもつそぶりのないアーロンが、女子とともに登校した。
それだけでも、学園的には大ニュース。
なのに、その相手がとんでもない美少女だったものだから。
みながアーロンとマリアベルに注目した。
「あの子、誰だろう」
「きれい……」
生徒たちの、そんな言葉が耳に届く。
この時点で、アーロンは気が付いた。
――ベル、この学園でかなりモテてしまうのでは!?
と。
浮かれてはしゃいで、大好きな子を磨きまくった結果、マリアベルは登校初日に「美少女がきたぞー!」と有名になってしまった。
自分だけが知る、可愛い可愛い女の子が、みんなに見つかってしまった。
マリアベルはもう、自分だけのお姫様ではない。
「じゃあ、またあとで……」
これから入学式を迎える一年生のマリアベルと、二年生のアーロン。
学園内で、ずっと一緒にはいられない。
別れるマリアベルににこやかに手を振りながらも、アーロンはこれからのことを考え、胃を痛めた。
彼女が制服を着ているときは、まだよかった。
問題は、入学直後のパーティーである。
彼女のエスコートを務めるアーロン。
張りきって、彼女がより美しく見えるドレスを用意してしまった。
準備しているときは、そりゃあもう楽しくて仕方がなかった。
彼女がドレスを着る姿を見たときも、最高の気分だった。
好きな子が、自分が用意したドレスを着ているのだ。
気分の上がらない男など、存在するだろうか。
正装に身を包んだアーロンは、マリアベルとともに会場の前に立つ。
「いこうか、ベル」
「はい、アーロン様」
二人が並んで会場に入ると、みなが彼らに注目した。
今日のマリアベルが身に纏うのは、シンプルな作りのうえに、さらに生地を重ねた白いドレス。
スカート部分は、大まかに分けると三層構造になっており、最も外側の生地はふわりと後ろに広がっている。
前面は二層で、長さも控えめなため、こういった格好に不慣れなマリアベルでも、なんとか歩けるだろう。
彼女の髪と瞳の色をイメージした青と銀の宝石も、見事な刺繍とともに散りばめられている。
アップにした髪には金の髪飾りが使われているが、これはアーロンの指示ではない。
気を利かせた使用人が、アーロンの色を使ったようだ。
ただでさえ美しいマリアベルが、美しいドレスに身を包み、髪をセットし、化粧をして現れた。
会場にいた者たちは、みな彼女の美しさに心を奪われ、熱い視線をそそいだ。
「あれって……『鮮血のマリアベル』だよな?」
「妖精姫って、本当だったのか……」
そんな声がそこかしこから聞こえる。
マリアベル本人はあまり気にしていないようだったが、アーロンは恋敵……になるかもしれない男たちの言葉を、しっかり聞いていた。
暴力女って聞いてたけど、ただの噂だったのか?
あんな美人がよく血濡れになってるって本当なのかな。なんか、それはそれでいい気がしてきた……。
妖精姫に魔法でぶっ飛ばされたい。
パーティー会場で、そんな風に話す男たちもいた。
ばっちり聞こえているアーロンは、「新しい扉を開くな!」と内心毒づいていた。
アーロンは、思う。
これは本当にまずいことになった、と。
マリアベルは美人だ。見た目だけでいえば、妖精のように儚げな美しい人。
これだけでも、マリアベルと結婚したいと手をあげる男はいくらでもいるだろう。
さらにそこに魔法の名手、鮮血のマリアベル、なんて称号が加わったものだから、なにかに目覚めかける男まで発生している。
マリアベルはこれから、アーロンを凌ぐ勢いで異性人気を得ていくだろう。
既に妙なファンまで発生しているのが、また厄介だ。
今までマリアベルが破談続きだったこと、彼女のよさを知る男が他にいなかったことにあぐらをかいていたアーロン。超がたくさんつくほど焦り始める。
なんとかパーティーを乗り切ったアーロンは、マリアベルとともに帰りの馬車に乗り込んだ。
本日のマリアベルの美しさへのあまりの反響に、彼は焦って焦って。
彼女が他の男にとられる場面を想像して、怖くなって。
自分でも、なにがなんだかわからなくなってしまって。
「はー終わったー!」
と自分の隣で安心するマリアベルに、声をかけた。
「……ベル」
「はい。どうしました?」
「……僕と、結婚して欲しい」
「はい?」
アーロンは、順番とか、タイミングとか、雰囲気とか、そういうものを全て無視して、彼女にプロポーズしてしまったのだった。
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