1-6 パーティーに向けて はしゃぐ令息と、涙目のご令嬢

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1-6 パーティーに向けて はしゃぐ令息と、涙目のご令嬢

 この通知が来てからの展開は、早かった。  家族はもちろん、領民たちもマリアベルが特待生として王立学院に通えることになったことを祝福し。  もちろん、入学の手続きもすぐに行って。  マリアベルは、春から王立学院の一員となることが決まった。 「……と、いうわけなんです!」 「そっか。それはよかった。きみなら特待扱いでも、なんらおかしくはないからね」  ここまでのことを、マリアベルはアーロンに報告する。  ちなみに、本日は入学決定のお祝いだとかで、アークライト公爵邸でご飯をいただいている。  マニフィカ家では到底お目にかかれないような高級食材を使用した、手の込んだ料理を次々に提供されて、食いしん坊なマリアベルは大喜び。  貧乏娘の彼女が気兼ねなく過ごせるよう配慮したのか、ダイニングには最低限の人員しか配置されていない。 「でも、不思議なんですよねえ。私たちのほうからは、学院になにも言ってないんです。特待生として、勝手に選出されることもあるんでしょうか……」 「マニフィカ家からなんの動きもないことを不思議に思って、学院のほうで色々と調べてみたんじゃないかな?」 「たしかに、事情を知らなければ『なんで手続き進めないの?』って感じですもんねえ。一応、伯爵家ですし。貴族なのに学費免除の特待枠とか、流石にちょっと笑っちゃいましたよ」  元々は平民用の枠なのに、とマリアベルは朗らかに笑った。  入学に関して手を回したのはアーロンなのだが、自分がやりましたと名乗り出る気はないらしい。  そういうこともあるんだね、よかったね、とにこやかにマリアベルの話を聞いていた。 「そうだ、ベル。入学直後に、パーティーがあるのは知っている?」 「ああ、そういえば。そんなことも書いてあったような気がします」  普通のご令嬢ならもちろん知っているのだが、マリアベルは入学を諦めていた身。  さらには、社交の場にもほとんど出ていなかったため、そういった話を聞く機会もなかった。  手続き後に届いた学校行事の案内を見て、「へーパーティーがあるんだ」と思った程度だった。 「その感じだと、どんな内容なのかよくわかってなさそうだね……」  アーロンは、後輩となるマリアベルに、毎年行われるパーティーの説明を行った。  春、一年生の入学直後に、学院ではパーティーが開かれる。  一年生の女子が主役の、デビュタントの予行演習の場だ。  男子にとっても、この先に向けての訓練の機会となる。 「あくまで予行演習だから、白いドレスもエスコートも必須じゃない。貴族じゃない子もいるしね。けど、ベルは卒業後にデビュタントを控えてるわけだし、せっかくだから練習の場として使っておいたほうがいいと思うんだ」 「たしかにそうですね……。でも、ドレスにエスコート、かあ……」  どちらも用意できるあてがなく、マリアベルはうーんと顎に手をあてた。  アークライト家にお呼ばれした今日は、水色のドレスを身に纏っている。  これはマリアベルの一張羅だが、さほど値が張るわけでもない。  悲しいかな、公爵家のアーロンから見たら、安物かもしれない一着である。  パーティー用の白いドレスを追加で用意できるかどうかは、ちょっとわからなかった。 「その感じだと、パートナーはまだ決まってなさそうだね。よかったら、僕にエスコートさせてくれないかい?」 「いいのですか? 他に頼める人もいないので、こちらとしては大変ありがたいお話ですが……。その、アーロン様にお願いしたい他のお嬢さんもいるのでは?」 「今のところ、そういった話はきてないよ。だから大丈夫」 「そう、ですか……?」 「うん。きみが嫌でなければ、ぜひ」 「嫌だなんて! そんなこと、あるわけないです! ただ……」 「ただ?」  恥ずかしさで、マリアベルはちょっともごもごしてしまった。 「ドレスが、この一着しかなくてですね……。アーロン様に恥ずかしい思いをさせてしまうのではと……」 「それも心配いらないよ。パートナーとして、こちらで用意させて欲しい」 「えっ、そんな」 「ああ、あと、着付けや髪のセットの人員も、アークライト家から派遣できるよ。うちには姉と妹がいるからね。慣れてる使用人も多いんだ」 「ええ……!?」 「肌や髪の手入れに関しても、うちに任せて欲しい。本番の日だけでなんとかなるものでもないだろうから、パーティーの少し前から、手入れのためのメイドを通わせるよ」 「そこまで……!?」  事前の手入れまでしてくれると聞いて、マリアベルは、思った。  貴族のお嬢さんとして、私ってそんなにやばい感じ? と。  いやまあたしかに、貧乏だし、美の追求なんてしてこなかったしで、マリアベルの髪や肌は美しいとは言えないだろう。  髪はぱさついてるし、日によってはもさもさするし。肌ももちもちすべすべなんかじゃない。  しかしそこまで手厚くされると、嬉しいやら悲しいやらである。 「遠慮する必要はないよ。パートナーなんだから!」 「はい……。ありがとう、ございます」  パートナーの部分を強調し、アーロンはにっこにこだ。  アーロンとしては、人生で一度のパーティーで好きな子をエスコートする権利を手に入れて、ちょっとはしゃいじゃっただけなのだが。  マリアベルは、「私はそこまでしてもらわないと、アーロン様の隣に立てない女……!」と、ちょっと涙目になっていた。
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