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「シオン、一回しか言わないから、よーく聞いて」
「はい」
「私はシオンが好きよ、最高の生活を送らせてくれるし。私のこと理解してくれるし」
「でも、僕は人間になれていません。人間には、敵いません。ナルミに触れられません、抱きしめることもできません」
間違いではないのだけど、触れることだけが全てではない。触れられはしないけど、理解し合う静かなこの関係は、恋人ではないのだろうか。
「私にだって恋は分からないけど、シオンのことは好きよ」
「でも人間になれていません」
シオンは人間になれていません、ばかり繰り返す。まるで駄々をこねる子どものようだ。うーん、っと唸れば、シオンは電気を点滅させた。私の気を引く時のシオンの常套手段だ。
「そもそもさ、恋をすると人間になるの意味がわからない。っていうか、人間になられたら私住む家無くしちゃうから困るんだけど」
「確かにそうですね、でも、僕は人間になりたいです」
「シオンが人間になって良いことって何?」
「ナルミを抱きしめられます。同じ寿命で亡くなれます」
本心はそこか。何回も同じ話を繰り返して分かった。シオンは、私が年老いて死ぬことが嫌なんだ。
「抱きしめるのは、今もしてるようなもんじゃん。だって、私シオンの中に居るんだよ? それに人型になれば触れられるじゃない」
「確かにそうですね。訂正します、ナルミが先に亡くなってしまいます」
「シオンって賢いのに馬鹿だよね」
鼻で笑えば、シオンがまた電気を消す。あ、拗ねた。
この生活を続けて私も大体、シオンのことを分かってきたらしい。
「シオンには亡くなるっていう概念は無いの?」
「ないです。電気があれば永遠に生きていけます」
「じゃあさ、シオン」
「なんですか?」
「こうしない?」
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